かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

四月の歌仙 山眠るの巻

会場の「芭蕉の館」の廊下。広間で歌仙を巻いています。

先月は月のくのところで

名残の月のつれなく見えて  平井

つれない月は恋の呼び出しと見まして次の句、初折の裏の7句目は恋の句をおねがいいたしました。

 

7句 風も木も街も私もやさしくて  佐藤

 

何もかもが優しい気分に輝いて見える。よっぽど幸せな恋なんでしょうねー。

 

8句 秘密の話ついついもらし  平井

 

やさしさについほだされて秘密を洩らしたくなる。親密さの深まりを感じます。

 

9句  過ぎし日の夢見て目覚む朝三時  中江

 

朝三時がリアルです。まだまだ暗いけれど、かといって夜とも言えない微妙な時間。過ぎし日のことと言っても完全に思い切れていないような雰囲気ですね。

さて、次は春の句をお願いしましょう。その次は花の定座ですから、植物は避けてくださいね。

 

10句  はだれ峯低く人増えて来し  笹次

 

雪に覆われて白く輝いていた時に比べてまだらな残雪ののこる斑雪の山は低いような身近なような感じがします。気候が良くなって外を出歩く人も増える。雪国の者にはよくわかる気分です。

 

11句花の定座 県境の峠超えれば花の山  佐藤

 

うーん、前句に「峰」があるのに峠、そして山も出してしまった。実は山中温泉から峠を越えたところに枝垂桜の公園があって、その話などしていたもので、つい。

 

12句 奥の細道春日傘征く  平井

 

春日傘をさして奥の細道を意気揚々とめぐる人。俳人ですね、きっと。

さて、来月はいよいよ名残に入ります。

 

 

歌仙「山眠る」の巻

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芭蕉の館 お庭の雪吊がもう窮屈そう。

一月二月と大雪やコロナのせいでお休みしておりましたが久しぶりでここ芭蕉の館に集って歌仙のつづきをすることができました。

初折のうらにはいったところでした。初折表は春の句が二句でしたので、せっかくの春めいた日でしたので春の句をまずは一句足すことにいたしました。

 

隠沼に静寂を返し鴨帰る  正藤

 

   渡り鳥で大賑わいだった沼も北の国に鳥たちの旅だった後はいつもの静寂が戻ってひっそりとしている。一抹の寂しさもあり美しい。

 

  市の瀬用水あふれんばかり  笹次

 

山中から山代温泉のあたりの用水だそうです。全国的にありそうな名前ではありますね。しかし、前句に「沼」があり初折表にも「水」があって、やや水っぽくなってしまいました。次は気分を変えたいところです。

 

大皿に幾何学紋の拡がりて   平井

 

これは古九谷の大皿でしょうね。古九谷の幾何学文様は大胆でモダンで素晴らしい意匠だとおもいます。さて、夏を飛ばして次は秋の句をお願いしましょう。

 

 松手入され甦る庭   正藤

 

大皿は宴の席にもふさわしい器でしょうね。眺めるお庭も手入れの行き届いた古木の松が、永遠の緑を見せている。

 

姉妹しぐさ似て来し秋衣   笹次

 

お着物をお召しになったのでしょうか。普段は宇治の大君と中の君みたいにそれぞれ個性的な姉妹もふとした市議差がそっくりだったりする。ほほえましいです。

 

名残の月のつれなく見えて  平井

 

ふむ、これは恋の呼び出しですね。来月は、恋の連句会となりそうです。

 

 

十二月の歌仙「山眠るの巻」

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パンデミックに明け暮れた今年もはや月末、新しい歌仙が始まります。

何かと忙しい冬の日に集まった風狂の友。当季の立句を所望いたしました。

 

音はみな谺となりて山眠る   正藤

 

枯れて明るくなった山を谺がさまよう。不思議に明るい虚無の響き。付けが難しそうだな…とおもいきや

 

  達磨ストーブでんとかまへて   佐藤

 

上手い!説明するとうるさくなるばかりでしょう。感覚的に味わってください見事な付けです。次は無季の句をお願いしました。

 

 

一つ聞き一つ忘るる一ㇳ日なり  正藤

 

一の字を重ねる趣向もおもしろいけど、季語があったら最後をの五を「小春かな」とかしたいところでいらっしゃったことでしょう。無季所望なんで…すみません。

一日ひとひ、というとき、小さいㇳを入れるのが「ほととぎす」式なんですって。

 

手もちぶさたに水使ひをり   笹次

 

これまた巧みなさらりとした付け。次は春の月をお願いしましょうか。

 

閉館の老舗旅館や月朧   佐藤

 

コロナヴィールスのせいか、歴史ある旅館の廃業もある昨今です。格式ある建物が廃墟になるのは寂しいですね。廃墟好きではあるんですけど。

 

ディナー・ショーへと青木を踏みし   笹次

 

「青き踏む」は春の季語、枯野がようやく青くなってくる、それを楽しみに郊外へ出かけ、草の上を歩む。

閉館となったホテルのディナーショーへ行ったことが御有りなのだそうです。ガーデンパーティーの後に芝生の青を踏んだのでしょうか。かつての華やかな時の思い出。

 

来月は新年ですが、どんな展開になりますでしょう。楽しみです。

 

 

 

 

 

十一月の歌仙「ほととぎすの巻」満尾

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あやとり橋から、鶴仙渓の紅葉を見下ろす

会場の芭蕉の館の庭の紅葉が驚くほど美しい日でした。ほととぎすの巻も、ついに名残の裏。

一句目は無季の句

磯釣の沖の巨船の動かざる  笹次

二句目も無季で、とおねがいしました。

 

 籠軽くして歩みのおもし   正藤

 

キノコ採りか山菜取り?前句が磯釣りですから、釣果がなかったってことでしょうかしらね。名残の裏は、さらさらと淡々とはこんでゆくものだそうです。さて三句目は。

 

まどろみて開きしままの文庫本   中江

 

無季ではありますが、どことなく春めいた気分の一句。いい感じです。

 

ふわりと反故の夕東風に乗り   橋本

 

前句ののどかで優しい雰囲気をつないでいます。次はついに花の上座です。

 

前撮りの母子のいこふ花筵  笹次

 

満尾を前にした寿ぎの花の上座にふさわしい句ですね。

 正装の母と娘に散りかかる花びら。美しく、大きな喜びに包まれながらも、大きなことをやりとげてしまったことへの一抹の喪失感もあって万感むねせまる、というかんじですね。

ところで結婚式の写真の前撮りって、このあたりの風習でしょうか。どこでもするの?

さていよいよ最後の句です。

 

橋三つ渡り春惜しみけり   佐藤

 

山中温泉は、写真の渓谷臨んでいますから、橋もいくつかあります。黒谷橋、あやとり橋、こおろぎ橋と遊歩道に沿ってめぐりつつ春を惜しむ。

発句の山中の景へと回帰する、見事な大団円でした。

 

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山道のツリフネソウ

歌仙ほととぎすの巻十月は、

名残の表の八句めからです今回は月もすでにでてしまったのでどうなりますでしょう

七句め  

残菊の光あつめしひとところ  佐藤

この美しい句につけるには、と考えたのですが

 

静けさ募る湖畔の日暮れ  正藤

 

の句をいただきました。しかし名残表の第一句めに似ている、とご意見があり、確かに似てるなと思ったのですが、すでに巻紙に筆書きしてしまった後だったので、そのままにいたしました。こういうこともある…。

 

待ち逢はす寺の門前石蕗の花  中江

 

待ち合わせるのは恋人だろうと、、突然恋がはじまりました。

さて、続きは、

 

一度断る焼き藷もらふ  佐藤

 

一度恥じらって断るところに恋の気配あり。

ほかにも寺小姓と美僧の恋の句などもありましたけれど、かわいらしい恋で。

 

帰り花アルバムめくる指の先  中江

 

昔の恋のアルバムをめくれば思い出は帰り花のように胸に開く。ロマンチックです。

名残の表終わりの句は無季で

 

揺らぐ仕組みのラムプの灯り  橋本

 

前句の指先や心には揺らめくものがあったろうというつながりで。

さて気分を変えて名残の裏へまいります。

 

磯釣りの沖の巨船の動かざる   笹次

 

句会の場所が山中温泉なので、自然山の景色が多くなりますので、海は目新しい気がいたします。名残の裏の展開が楽しみです。

九月の歌仙「ほととぎすの巻」名残の表

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先月で初折も終わり名残へはいります。山中温泉という土地柄、山の景色が多いので、気分を変えるようにお願いしました。無季の長句で。

 

さざ波を潟にのこして暮れなづむ  正藤

 

さっそく汀の景色。季語を入れずに自然詠は結構難しい。つぎはちょっと忙しいけれど、夏の句を。

  

  四谷怪談暑さを忘れ   平井

 

夏といえば怪談と思いますが、怪談は季語ではないんですってね。もう一句夏の長句をお願いしました。

 

大花火闇の余白を使ひ切る   正藤

 

上手いですね。まいりますね。

こういう名吟を五分ほどで作れるって、凄すぎる。連句は普通の俳句会と違って、句を作っておくことができないので、本当に、即吟なんですよ。驚き入りますね。

こういう句の後に、どう付けたらよいか、困りますよね。

 

  ワイン片手に話のはずむ  中江

 

こういうさらりとした句が必要なんです。

さて、なぜこんなに急いで季節を進めてきたかというと、この日は九月二十一日、八年ぶりの仲秋の満月だったんです。前夜の月も良かった、と会場ではなしが弾みましたので、月の定座にはかなり早いけれど、せっかくなので、秋の月をおねがいしました。

 

松風に月読の影すみわたり   平井

 

枝影のくっきり落ちているのって風情あります。木漏れの月光。

 

  一度振り向き蛇穴に入る  佐藤

 

 

冬眠のために穴にはいる蛇の気持ちって、どんなものでしょう。ほっとしているのか、眠くてたまらないのか、冬を無事越せるかどうか、心配だったりするのかな。振り向く姿に思わず同情しますね。蛇好きではないんですけど。

さて、名残の表も、もう半分。来月はどんな展開になるのでしょう。。

 

 

 

 

歌仙 ほととぎすの巻八月

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先月は初折の裏五句まででした。

句会場隣席したき君を待つ   正藤

今回はしばらく無季の恋句が続きます。

   声の軽やか飛石を来る  笹次

 

茶室でなくとも綺麗な御庭の飛び石を軽やかにやってくる明るい声が、まず耳に入ってくる。ドキドキですね。

大杉に廻す腕の指の先   佐藤

 

木の大きさを実感しようと腕をまわしてみる。よくやりますね。その指先が触れ合った。意図的なんでしょうね、きっと。

 

あやとり橋の水の深さよ  中江

 

あやとり橋は山中温泉の渓谷をまたぐ橋の一つで、かなり高い橋です。恋の終わりにそんなところから水面を眺めているのは、怖い。さて次は春の句、月の定座も過ぎたので、春の月の句をお願いしました。

 

春の月山頭火影長くひき  笹次

 

漂泊、行乞の俳人山頭火、春の月に取り合わせるとは…上手い。脱帽ものです。

 

  豆腐蒟蒻木の芽田楽   佐藤

 

うわ、これまた軽妙の付け。こちらも感心しました。良い句の後は難しいものですが、これまた、見事です。さてついに花の定座。

 

渓谷は谺を返し花三分   正藤

 

先の軽妙な付けから、にぎやかなお花見になるかと思えば、人気のない木魂だけが響きかわすような渓谷にちらほらと咲き始めた桜。

 

塗師町の路地春の深みて  中江

 

漆の塗師さんは山奥にお住まいの方も多くていらっしゃいますね。山中温泉の伝統工芸山中塗は木地師さんも塗師さんも大勢いらっしゃいます。昔ながらの風情あるたたずまいの町の細く曲がりくねった路地に深まる春。良い句ですね。