歌仙「桐一葉の巻」
歌仙もいよいよ名残に入りました。
先月は花の座の後
師の忌を修す春雨の径 正藤
と思いの深い句で終わりました。
名残の表初句は
かきわけて登り登りて砦址 平井
春雨の径を辿るうちについに山まで登ってしまった!
砦址は山中温泉の奥、一向一揆の砦址を探索なさってた折りのことだそうです。熊の出そうな道なき道だとか。それほど高くはないけれどさすがに見晴らしのよい要害の地だそう。このあたりは一揆の跡地や、戦国時代の山城など、埋もれた史跡の多い地域です。さて次の句は
安宅を舞える夢のまた夢 笹次
兵どもが夢の後。謡曲「安宅」は悲劇のヒーロー義経の陸奥への道行きの曲。砦址には名も知られないもののふの妄執が残っているのかもしれません。砦址から夢幻能へ。格調ある展開です。次の展開難しそう。夏の句をお願いしました
戦乱の時鎮まりて浮いてこい 佐藤
う、上手い!「浮いてこい」は水遊びのおもちゃです。小さな人形で水の底からブクブク浮いて来るのがおもしろい、とか。前句の格調ある修羅モノの世界を踏まえ、水遊びのおもちゃという、ささやかなものを見出した感性がすごい!
愛らしい人形の姿に「海ゆかば水漬く屍、山ゆかば草むすかばね」の大伴家持の歌にあるような、数知れないやり場のない思いが、やっと光へと昇ってくるようなイメージが泣かせます。
最も小さなものに顕現する大いなるものの影。 凄い。
空の紺碧代田に落とし 正藤
明るい田園風景に転じつつも前句までの思いもしっかりと受け止めた、極上の付け。
田植え前の水を張っただけの代田に映る空の、何という青さか!。
感動的に始まった名残の表、次は無季の句で、とお願いしたら集まったのは、恋の句ばかり。おまたせしました。恋、まいりましょう。
新装の蟋蟀橋に手をつなぎ 笹次
山中温泉の名所のひとつ、渓谷にかかる蟋蟀橋が架け替えられたところなんです。時事を踏まえて一番大人し目な恋の句をいただきました。
逢えばまたすぐ逢いたくなりて 中江
さらりと次へ渡す付け。こういう句も必要なんですよ。
さて次回は十二月になりますね。どんな展開か楽しみ