さて、水澄やの巻もとうとう名残の裏となりました。一句目は先月に戴いております。
鳥獣懐に抱き山眠る 正藤
さて二句目は
水ひそやかに凍滝の裏 佐藤
素晴らしい付けですね。凍った滝の裏にはひそやかに水が流れているのだ。前句の、冬の最中、深い慈愛に満ちた優しさで鳥や獣を抱く、母なる山の温かみが感じられるところを受けて、厳しく凍てついた滝の、その裏に密かに通うみずの気息をとらえた。感性に脱帽、
つぎは一句無季の句を挟みたいと思いました。
親しくも疎くなりゆく人の世に 正藤
名残の裏にしては、やや重くなったかもしれませんが、無季の五七五って、本当にどう持っていったらよいか悩むものですね。
七色に散るシャボン玉よ 中江
この付けも上手い。前句の感慨をうけて無常迅速、人の世のはかなさを軽やかにかつ美しくちいさなシャボン玉に映し出しました。絶妙ですね。さて、次はついに花の定座です。
半分の明るさありて花の雨 正藤
花時の花に降る雨の不思議なあかるさ。美しい句です。細みがある、というか。
さて最後は
隠り沼にも春闌けにけり 佐藤
前句の細みを堂々と受けて大団円の雰囲気。人の知らない隠れた沼にも春は闌となっている。味わい深い。