庭は、ちょっと荒れたくらいが、良いですね。
さて、七月の歌仙の会、新たな始まりです。当季の夏の句で。
発句
工房に鉋百丁青葉冷 中江
木地師の工房でしょうか。使い込まれ、研がれて並ぶ百丁もの鉋。金属の匂いがするような存在感です。青葉との対比はもちろん「冷え」なのが金属の冷たさと通底するものがあって効いています。さて、脇句は。
髪切虫の右往左往に 佐藤
刃物からのれんそうで「切り」がでてきたのでしょう。右往左往も面白いけど、右顧左眄でもひげを震わすカミキリムシらしい気もしましたが。
橋いくつ風にのりくる木霊とも 笹次
この橋はヴェネツィアのような水の都の橋ではなくて渓谷にかかる橋なんでしょうね。
庵の跡を見に行くと言ひ 中井
上手い付けです。芭蕉翁か西行か、隠れ住んでいた庵の跡を見に行くと言って飄然と出かける人物。かなり風流な人のようです。
病癒え一献賜ふ月今宵 正藤
前句で出て行った人物は、病後を養っていらしたんですね。平癒したから「今夜くらいは一杯やっても良いわよ」と奥様からお許しが出たのだそうです。ほほえましい。
野道を行けば紫式部 平井
なんと野道で紫式部と出会ったとは!なんちゃって植物の紫式部ですよ~、というおもしろい付け。きれいな紫ですよね。
もう初折の裏に入ります。野道を行くのは旅の途上であろうということで、
宿の子に越前和紙を見せもして 橋本
紫式部は越前にいたことがあったそうで、紫式部公園というのが越前和紙の里今立への途上にあります。
金平糖を包みませうか 中江
きれいな和紙で包んであげる、優しい句ですね。
山門の山中節や冬の蝶 佐藤
実は能面を抽斗に入れるという秀逸な句をまずだされたのですが、旅を続けてほしいということでこちらにしました。越前から山中温泉へ、芭蕉とは逆向きの旅をしてますね。
水海(みずみ)の里の雪の能舞 笹次
作者は能面からの連想で作ってしまった…とのことでした。水海というのは地名です。山深いその土地には田楽能舞という非常に古式ゆかしい舞が伝わっていて寒さの中、ふきっ晒しの神社の舞台で演じられたのだとか。
銀河凍てシューベルトの降りてくる 中井
歌曲「冬の旅」がどうしても言いたかったようですね。銀河も凍てつくような寒さの中天体音楽が聞こえるという感覚はわかります。わかりますが、こんどはシューベルトですか。さて初折の裏も中ほどになったのでそろそろ恋の句をお願いしましょうか。
心の奥につぶやく瞳 正藤
冬の夜空に輝く星々のようにきらめくその瞳が、今も心にささやき続ける。これは、恋の呼び出しというよりは、永遠の恋ってかんじですね。キラキラと濡れて輝く瞳。
来月は恋ですね。