かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

歌仙「菊たけなは」の巻

あけましておめでとうございます。ことしも楽しく歌仙を巻いて行きたいものです。

会場の床の間。お正月らしくおめでたいしつらいです。

 

前回は初折の裏七句目まででした。

 

時雨るやお借り申すぞ寺庇  正藤

 

という蕪村の句のような味わいの一句でした。さて、その付けは

 

一礼をして踵を返す  佐藤

 

上手いつけですね。前句のユーモアのある時代がかった物言いを踏まえて、芝居のワン・シーンのようです。歌舞伎ですね。

 急な雨に何人か、寺の庇に雨宿りするなか、急ぎの用でもあるのか、踵を返して出て往く一人。雨宿り仲間に一礼してゆく。そこはかとなく礼儀正しい挙措に、今は落魄の身の上でも由緒ある出自の浪人、みたいな。

もう一句無季をお願いしました

 

水たまり跳んだつもりのスニーカー  中江

 

バシャッと水をはねてしまったのでしょうね。それも楽しそうです。若々しい現代の句に戻ってきました。次は花の定座の前の春の句

 

対角線に蛙鳴く畦   平井

 

おもしろい!畦がきっちり四角いんですね。その対角線上に蛙が鳴き交わしている。自然の理にのっとって、いるのですね。さて花の定座。

 

この投句の数!両端切りましたけど机一杯あるんですよ!選句に時間かかりました。

そのなかで、

 

西行の跡訪ねゆく花ぐもり  小林

 

「花ぐもり」が、ことのほか良いですね。余韻があります。

また旅がはじまるのかな。

 

吉野の里に春を惜しみて  笹次

 

西行といえば桜、桜と言えば吉野です。奥千本の西行庵もゆかしい。

来月は名残に入ります。旅化、恋か、どんな展開になるか楽しみです・

 

芭蕉の館連句会十一月「菊たけなはの巻」

紅葉の盛りの芭蕉の館。今回は初折の裏、三句めからです。春の句

 

薄氷の幾何学模様昨夜の風  正藤

 薄氷(うすらひ)は初春の季語です。夜の間水辺の氷が風向きによって厚みを増したりゆるんだり、亀裂が入ったりするのでしょうね。まだまだ寒いけれど薄くなった姿に春のけはいをかんじる。

 

しゃぼん玉吹く君の声入れ   元田

 そろそろ恋の句も欲しいというところで、春のシャボン玉。きれいで儚いその中に君の声が入っている!すばらしい。ふく息と一緒に小さく漏れた声でしょうか。あまりにも感じやすくて壊れてしまいそうな恋ですね!

 

モネの池ひと巡りしていとほしき  佐藤

ジヴェルニーの池はかなり広いですよね。どうしても夏の睡蓮の咲くころを想像してしまいますが、文字の上では無季の句。夏の恋の思い出か…。

大急ぎで季節は秋に。

 

 皆既月食<あか>を残して   井上

 

この<あか>は偏は赤で作りは者、という漢字です。茶色っぽいレンガ色がかった赤の意です。私のおバカなPCでは出ないけど。

先日の皆既月食見事でしたね!

 

時雨るやおか借り申すぞ寺庇    正藤

 

古寺に雨宿り、昔物語なら幽霊でも出そうなところですが、作者は時代がかった表現にユーモアを込めて、時雨の寺というシチュエーションを楽しんでいらっしゃるようです。

さて来月はいよいよ初折の裏もおしまいになる運びです。花の座が待っています。

 

 

 

芭蕉の館歌仙十月「菊たけなは」の巻

新しい歌仙がはじまります。今回は先月、山中温泉においでになった俳人長谷川櫂氏に、発句をいただいております。台風のせいで一か月遅くなってしまいました。

 

来あはせて菊たけなはの山湯かな   櫂

 

芭蕉の「山中や菊は手折らぬ湯の匂ひ」を踏まえた、土地への挨拶句さすがでございます。

  東籬のもとに細き虫の音   橋本

 

付けは、菊と言えば思い浮かぶ「菊を採る東籬のもと悠然として南山を看る」の、陶淵明の「飲酒」の一説を引用して、細々ながらも、こうして鳴き続けております。という気持ちです。

第三句目は

 

   断崖を海に落としてけふの月   平井

 

発句にしたいような迫力の一句ですが、これは先月にすでに提出済みという話せば長い経緯があるのでそのまま、とらせていただきました。堂々たる句です。この月には凄愴のすごみさえある。

つぎは無季の句を挟みたいと思いましたが、海と断崖という大景のあと、展開がややむずかしいかも。

 

水門はるか鳥の羽ばたき   笹次

 

この作者はいつも高度な句をおつくりになる方ですが、こちらは、さらりと受け流した感じ。水鳥の鴨などは夜も飛びますし。さて、無季を一句だけ挟んで次は冬の句をお願いしましょう。

 

古本に赤線ありぬ憂国忌   元田

 

手に入れた古書に線が引いてあったりする事はたまにあります。普通はあまり嬉しいものでもないですが、これは、いかにも真摯に、切実に向き合って読書していたことのわかる場所にひかれていた線なのでしょう。おりしも憂国忌。実にいい取り合わせです。

憂国忌の句として秀逸だと感銘いたしました。

 

どか雪を来し朝刊の束  中江

 

冬の朝、大雪の中、それでも届けてくれた朝刊の束。山中温泉も雪深い土地ですから自然詠でしょうが、朝刊の束に目を止めたところ、おそらくあの憂国の出来事のあった翌日の新聞はその事件で重かったでしょうから、絶妙の付けとおもいました。

さて、初折の裏へはいります。

 

 梵鐘の余韻を背に旅の宿  正藤

 

 夕べの鐘でしょう。その響きの中に宿についいた。旅心が誘われます。古い町のやや古風な旅館の佇まいが目に浮かびます。旅がはじまりますね。

 

ハフハフと食ぶたこ焼きの船  佐藤

 

フフ、熱々のたこ焼きを食べる光景にぱっと転じた気転がかっこいい。容器の船の形に一抹の旅情と哀れさあり。

さて、次回は春の長句。旅は続いているのか、そろそろ恋か。

 

八月の歌仙 「山眠るの巻」満尾

八月はお盆休みを避けて今日23日となりました。山中温泉がテレビに放映されたとかで今日は観光客らしい方々が大勢あるいていらっしゃいました。連句会の会場の芭蕉の館も見学の方が次々お見えでした。

さて、そんな中で、いよいよ名残の裏、残り五句です。一句目は

  ペン握り日頃の多弁一句なし   井上

でした。つづきはもう一句無季の句を

 

  海を見に行くバスを待ちゐて  中江

 

そうですね。何も思い浮かばないときは外に出て景色を眺めるのが一番かも。

 

三句 浅き春フラフープのごと土星の環  佐藤

 

目が回りそうなスケールのフラフープですね。

 

四句 木の芽田楽味噌派しょうゆ派   佐藤

 

花の定座を前にしての木の芽田楽。楽しい運びです。さていよいよ花の座です。実は、私は今年はどこにもお花見に行けませんでした。コロナのことありますが。ウクライナの戦争の悲惨な光景を目にするとなんだか沈んでしまって。

せめて句の中でも花を満喫したいものです。

 

五句(花の定座) 老桜幹の低きに蕾をり   元田

 

 

桜の古木に、幹からじかに一輪の花が咲き出すことありますね。幹の方はゴワゴワ、ごつごつしている中に、可憐に咲き出す花の姿は、ひとしお哀れ深いものがあります。いい句ですねー。感銘うけました。

ついに挙句です。

六句 からくり時計春の闌けたる    笹次

 

からくり時計のこまごました仕組みの中に、春たけなわの時間が紛れてゆったりと流れる。面白い取り合わせです。

今回は、なかなか変化のある面白いまきでした。ただ、その場の勢いでさばいてしまって同じ言葉が重なったりしてしまうのは、ひとえに私のいたらなさの故です。反省してるつもりなんですが、何度も同じことやらかしてますね。気を付けましょう。

七月の歌仙「山眠るの巻」

梅雨の戻りのような雨催うのお天気の中、連衆がそろって、七月の歌仙を巻きました。

名残の表の最後。十句めからです。先月は秋の句

九句目  峡の日の銀杏紅葉に移り来し   中江

という秋の句で終わっていましたので、無季の句を一つ挟んで月の定座へ、向おうか、と。

十句 手を振ればすぐ振りかへされて  中江

 

銀杏紅葉の下で手を振って別れる、という図でしょうか。手を振り返してくれるのはうれしいけれどあまりすぐだと、「向こうはさよならするのを何とも思ってないのだな…」とほんの少しだけれど、物足りなく思うような微妙な機微をつかんで面白い付けです。つぎは月を出してもらいましょう。

 

 寒の月琵琶湖をのぞむ仏たち   笹次

 

すばらしい。琵琶湖のまわり、特に湖北には素晴らしい仏様たちがいらっしゃいます。渡岸寺の国宝の十一面観音立像を見た日のことは忘れられません。誰の小説だったか、月の琵琶湖をめぐって御仏の姿がほのかに輝くのを幻視する、夢幻的なラストシーンがありました。白洲正子の「近江山河抄」「十一面間の巡礼」などエッセーにも多く書かれてきました。私も若いときに湖北のあちこち尋ねあるいたものですよ。

前の句とのつながりが読めない?ええっとまぁそれはそれ。観音様が手を振ってくれたらうれしいし。千手観音が手を振ると、ちょっと怖いかも、ですけど。

もう一句冬の七七。

  波に委ねて一陣の鴨   正藤

良い付けですね。波に揺られて水鳥の群れは、寄る辺なく見えはしますが、きっと仏様に守られているのでしょう。ついでながら、琵琶湖って結構波ありますよね。

ただ、この歌仙の途中の既に鴨は一度出ていましたね。

さて、これで名残の表もおわり、いよいよ、名残の裏にはいります。無季の句をを挟みましょう。

 

ペン握り日ごろの多弁一句なし  井上

 

身につまされます。わたしは口の重い方ではありますが、一句もこれは、という句はありませんので。さて来月はいよいよこの「山眠る」の巻も満尾となるのでしょうか。

乞うご期待。

 

六月の歌仙「山眠るの巻」

今日の連句会に発表された句句。これだけの投句から選ぶんですから、面白くないわけがない!
 さて、名残の表の中ほどです。そろそろ「恋」もまた欲しいころ。

 

第5句  夕暮れに口笛吹いて罪と罰    元田

合図の口笛を吹いて誘い出す夕暮れの恋人は、ラスコーリニコフのような苦悩に満ちた瞳の青年なのか。難しい恋の予感がします。

 

第6句 ゴリラの気持ちわかるこの頃    平井

 

なんと!罪深い恋かと思ったらゴリラの気持ちが分かるとは!

ひたむきなのはわかりますが。いやはや奇想天外の恋。

無季の句を2句はさんでそろそろ秋の句にいたしましょう。

 

第7句  コスモスや囁き合うて頷いて   正藤

 

優しい秋の句。それでも「富士には月見草が良く似合う」ようにゴリラにコスモスもなかなか似合うと思います。と、言ったら、作者が「似合うと言われてもうれしくない」とつぶやかれたので、思わず笑ってしまいました。

 

第8句 刈田の案山子片付けぬまま   小林

 

刈り入れのすんだ田にぽつんととりのこされた案山子。淋しそうです。ついこの間まで、黄金に揺れる稲穂の波を守っていたのにね。

「刈り」「案山子」「片」とかさねられた乾いた「カ」の音が案山子のカクカクした感じを印象づけます。

 

第9句 峡の日の銀杏紅葉へ移り来し  中江

狭い谷の空を秋の日はみるみる移動して銀杏の木へ届いた。金色に色づいた銀杏紅葉はスポットライトが当たったように輝く。美しいです。

来月は名残の表も終わりになりますね。月の座がまっています。

 

 

 

五月の歌仙「山眠る」の巻

お床の花 こでまりと白糸草

枝ぶりも葉っぱも、とてもきれいなこでまりですね。感心しました。白糸草も寂しげな花ですがほのかな香りがたたずまいによく似合って味わい深い。

さて、今月はいよいよ名残の表にはいります。先月は「奥の細道春日傘征く」と旅への憧れが出ていましたから、旅の気分で無季の句をお願いしました。

名残表

ウクレレの指しなやかに湯町暮れ  笹次

 

旅の宿で、ウクレレを弾いている人。無聊をなぐさめているのでしょうか。旅にある身のそこはかとないもの憂さ。一抹の哀感がかんじられます。これもまた旅情というもの。

もう一句無季で、七七お願いします。

 

本格珈琲豆より挽いて   佐藤

 

さりげない、本当にただそれだけのこと、みたいな付けですが、しかし、旅の途中でふと立ち寄った、カフェが、雰囲気の良いお店でコーヒーもおいしかったりすると、忘れがたいものですよね。あの町の名前も忘れてしまったあの店のコーヒーおいしかったな、と後々まで記憶に残ったりするものです。

さて、三句目は夏の長句をおねがいしましょう。

 

軋みては現に戻る籐寝椅子  正藤

 

いいですね、夏の午睡。籐の寝椅子にまどろみながら、そんなに深く眠るわけでもないけれど一時この世をはなれて無可有郷に遊ぶ。こちらも一つの旅かも知れませんね。

付けの夏の七七は

 

蛍火にゆれ動き出す山   元田

 

いい付けですねー。蛍火の夢幻的は様子を、その背景に黒々とそびえる山のほうが動き出すと表現した。詩的です。前句の夢うつつの気分を見事に抑えて、かつ美しい。絶妙の付けをいただきました。

さて、今回は、投句数が多く秀句も多くて選ぶのに悩んで時間がかかってしまいました。出勝ちでこんなにたくさんの投句の中から捌かせていただく連句の会なんて、ほかにないのではないかと思います。来月も楽しみです。