かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

学び舎歌仙

旧年十一月,市内の錦城中学校で、国語の時間の特別授業だったか何だかで歌仙を巻きました。安藤忠雄設計のすばらしい木造校舎です。学生さんたちがうらやましい。音楽室が二室もあるんですよ。中学生さんたちも活発で楽しかったです。

まずは発句。恥ずかしながら拙句です。

 

冬うらら森の記憶を学び舎に  おるか

 

緑豊かな丘陵に位置する校舎木の柱の、文字通り林立する開放的な空間でしたので一応ごあいさつまで。さて、脇は、

 

寒き時間が年輪になり  パナップ

 

上手い!良い付けですね!感心しました。寒い期間の年輪は密になるんですよね。もう一句冬いきましょう。当季ですから。

 

鯛焼を両手に包む歩道橋  りくゆう

 

鯛焼の温かさをまず味わっているんですね。臨場感があります。中学生っぽい。次は無季でおねがいします。

 

真白い雲がほかほか上がる   なん

 

賢い!雲がホカホカ上がる。たい焼きのイメージをつなぎながらも、無季でいられる。雲がホカホカというのも面白い。無季もう一句挟みましょう。

 

旅に出て自然界隈一休み  M

 

「自然界隈」というのは学内のオープンスペースの呼び名だそうです。そういう旅もあるんですね。

おっと月を忘れるところでした。

 

一人流れる夏川の月  市田

 

良い句ですね。孤独感をサラリと流している。うまいですね。おどろいた。

この歌仙は満尾したのですが、いったんここまでにしておきます。続きはまた、のちほど。

 

 

 

 

芭蕉の館歌仙12月「コスモス活けて」の巻

芭蕉の館」の庭、今日は雪吊作業中でした。庭師さん方、木を見上げて枝ぶりを観察し計画的にお仕事を進められていました。

さて新しい歌仙を巻くことになりました。発句は高野ムツオ氏から頂戴しました。

 

山中はコスモス活けて雨の暮  ムツオ

 

山中という土地への挨拶、ですね。ありがとうございます。脇は「芭蕉の館」館長に。

 

 川霧はれて湯煙の里  平井(はれては雨かんむりに齋の字)

秋の山中温泉の景色三句目は

 

橋の景橋よりの景照紅葉   中江

いかにも、ですね。山中温泉を流れる川には大小の橋がかかっています。

 

両手に掬ふ水のおいしさ  橋本

 

次は冬の句、そしてそろそろ月の座ですね

 

単線の一人待つ駅寒の月   正藤

 

単線の無人駅(おそらく)に眺める冴え冴えとした寒の月。孤独を受け止めてくれる明るさでしょう。さて、旅が始まったのかな。

 

雪の濤間の諧調深く   佐藤

 

山中温泉から海の方へ旅したわけですね、ということは、前句の単線は七尾線ってことかな?

 

千枚田凍てを尽くして数顕わ  平井

 

能登へ向かわれたのですね。大地震の後、頑張って復興して稲刈りもおわった千枚田。一枚一枚の形があらわに見える。寒々しく凄みさえ感じられる一句です。

 

バスに揺られて香林坊へ   中江

 

無季の句をサラリと詠むのは難しいものですが、実に軽妙です。香林坊は金沢の繁華街です。

 

ひとくさり蘊蓄ありて珈琲サロン  橋本

 

絵馬犇めきて若葉する宮  正藤

 

初折の裏15句目は花の定座ときまっていますから、それにあわせるために冬から夏へとびました。初夏の若葉の宮居。夏の句もう一つ行きましょう。

 

爽やかに白球交わす宿浴衣   佐藤

 

えっ、もう恋ですか。若葉の お宮も確かに爽やかですが、爽やかつながりで宿の浴衣で卓球してるお二人にイメージが飛ぶとは!

あー、ひょっとして二人は,少年同士とか?

さて、来月はどんな展開になるのか、まったくよめませんです。

 

歌仙青葉冷えの巻 九月

白秋海棠。花は白いのに茎には紅色がさして可憐です。そして葉裏にこんなに濃い赤を秘蔵している。

さて、おりしも今宵は中秋の名月なので、先月からの夏の句の後に無季を挟んで月の定座は秋の名月にいたしましょう。せっかくの今宵なのですから。

夏の句もう一句。駱駝が出て、旅の気分をもうすこしつなげたいので、

 

ポケットに古乗車券晩夏光    橋本

生命線に尋ねてみても      平井

 

面白い付けですね!人生は旅なり、といいます。安定を選ぶか、冒険してみようか、じっと手を見る。

 

百歳を二人越えたる家系にて  林

生命線は長命の相だったとみえます。百歳が御二方もいらっしゃる。

 

令和の米の塩むすび食ぶ    中井

 

上手い!良い付けです。あくまで素朴で質素な塩むすび。しかしお米の艶までが目に浮かぶ。しっかりと堅実に生きての長壽というよろしさ。この付けのおかげで前句が、しっかり座りました。

さて、いよい秋の句

 

水澄むや真黒な鯉の五六匹   中江

 

たしかに黒い鯉は水が澄み切っていないとはっきり見て取れませんね。

 

蔵の奥なる鈴虫の声     笹次

 

鯉の次に虫が出るのは、どうか、と思いましたが、声なのでお許しいただけるかと…。

これは、ちょっと連句の去り嫌いを検討しなくてはなりませんね。

 

湖心まで波の立たざる月今宵  正藤

 

まさに名月。皓々と地上の景色を統べる。湖の波さえ思わず静止するその輝き。

 

かぜにもつれしまま吾亦紅    佐藤

 

前句から一転して動きやまない柔らかな植物へ。吾亦紅の細い茎の繊細な動きをとらえて、これで名残の表おわりです、来月はもう名残の裏。はやい。

 

青葉冷えの巻 初折の裏七句め

芭蕉の館の縁側から庭を眺める

夏の終わりの少し荒れた風情のお庭。いいものですね。縁側の木目が流水のよう。

先月は

心の奥につぶやく瞳  正藤

これは、ふと好きになったとかなんかではない、once  in a life time  一生に一度の恋でしょう。さて、どう展開しますか。

 

舟に酔ひお酒に酔ひてゆれゆれて  平井

 

うーん心がまだ揺れているようですね。この辺りで長句と短句が同じ人に廻ってこないように順番を変えて…、なんと私が次ですか!?しかも春の月で、恋で、七七の短句ウググ。

朧の月のにほひと思ふ  橋本

舟が揺れて思わず近づいてしまったときに、ふと感じたその香り

 

春光におくれ毛はねる薄化粧  roca

前句の”にほひ”は髪の匂いとお考えになってくださったんですね。しっかり踏まえてくださってありがとうございます。

 

人訪ねゆくうぐひすの杜  小林

 

美しい付けですね。おくれ毛を春光に光らせながら行くのは人をたずねてゆくのだった。ふむふむ。

そこはうぐひすの杜だった。あー美しい。うぐひす屋敷のお話のよう。山の奥に立派なお屋敷があって、道に迷った旅人は美しい女に導き入れられ最後の一室だけは見るなといわれる。世界中にある「見るなの屋敷」のパターンです。旅の男が我慢できずに覗くのはお決まりですが、世界のどこでも約束を破った男は恐ろしい罰に合いそうになって命からがら逃げだすことになります。ところが、日本の「うぐいす屋敷」の場合だけは鶯の鳴き声が消えていったというだけで罰らしい罰はない。美しい夢が覚めてしまったというもの哀れの美感があるだけ、という優しい終わりなんです。日本人のやさしさですかしらね。

ともあれ、山中異界の物語、ちょっと泉鏡花の世界の匂いもして美しいです。

さて花の定座です

 

わらべらはさくらさくらとあそびをり   中江

 

泉鏡花の世界から戻って神社の杜でしょうか花のしたで遊ぶ童たち。散りまがうはなびらの精のようですね。初折の裏の挙句は

 

都踊りの目久眩めく夢   山椒魚

 

芸子さん舞妓さんの総踊りは全く夢の世界。目くるめく世界ですね。華やかな終わりになりました。

さて名残の表にはいります。まずは無季の句

 

只に刻過行くばかり水を恋ひ  笹次

 

歌仙は一巻の中に人生の全てを盛り込むといわれます。華やかな夢の世界の終わった後は生老病死苦などが来るのも面白いかも、とおねがいしました・無常迅速という句ですね

 

駱駝の列の影の伸びゆく  中井

 

水を恋ふのは砂漠であろうという見立てですね。さて、無季を二句はさんで、

つぎは夏の句を。砂漠、そして夏、…戦争の句でもあるとよいか…とおもったら、美しい自然詠が!

 

渓流に小枝翳して合歓の花  正藤

 

橋の曲がりに添ひし白南風   佐藤

 

こちらも美しい白南風。橋の字は発句脇、そして三句目にでてきますが、かなりはなれているので、いたあきました。他の候補作より抜群にきれいだったので。

 

 

 

 

 

 

 

 

青葉冷えの巻始まりました。

夜来の雨でやや荒れた風情の庭のぎぼうし

庭は、ちょっと荒れたくらいが、良いですね。

さて、七月の歌仙の会、新たな始まりです。当季の夏の句で。

 

発句

工房に鉋百丁青葉冷   中江

 

木地師の工房でしょうか。使い込まれ、研がれて並ぶ百丁もの鉋。金属の匂いがするような存在感です。青葉との対比はもちろん「冷え」なのが金属の冷たさと通底するものがあって効いています。さて、脇句は。

 

髪切虫の右往左往に  佐藤

 

刃物からのれんそうで「切り」がでてきたのでしょう。右往左往も面白いけど、右顧左眄でもひげを震わすカミキリムシらしい気もしましたが。

 

 

橋いくつ風にのりくる木霊とも  笹次

 

この橋はヴェネツィアのような水の都の橋ではなくて渓谷にかかる橋なんでしょうね。

 

庵の跡を見に行くと言ひ   中井

 

上手い付けです。芭蕉翁か西行か、隠れ住んでいた庵の跡を見に行くと言って飄然と出かける人物。かなり風流な人のようです。

 

病癒え一献賜ふ月今宵  正藤

 

前句で出て行った人物は、病後を養っていらしたんですね。平癒したから「今夜くらいは一杯やっても良いわよ」と奥様からお許しが出たのだそうです。ほほえましい。

 

野道を行けば紫式部  平井  

 

なんと野道で紫式部と出会ったとは!なんちゃって植物の紫式部ですよ~、というおもしろい付け。きれいな紫ですよね。

 

もう初折の裏に入ります。野道を行くのは旅の途上であろうということで、

 

宿の子に越前和紙を見せもして    橋本

 

紫式部は越前にいたことがあったそうで、紫式部公園というのが越前和紙の里今立への途上にあります。

 

金平糖を包みませうか  中江

 

きれいな和紙で包んであげる、優しい句ですね。

 

山門の山中節や冬の蝶   佐藤

 

実は能面を抽斗に入れるという秀逸な句をまずだされたのですが、旅を続けてほしいということでこちらにしました。越前から山中温泉へ、芭蕉とは逆向きの旅をしてますね。

 

水海(みずみ)の里の雪の能舞  笹次

 

作者は能面からの連想で作ってしまった…とのことでした。水海というのは地名です。山深いその土地には田楽能舞という非常に古式ゆかしい舞が伝わっていて寒さの中、ふきっ晒しの神社の舞台で演じられたのだとか。

 

銀河凍てシューベルトの降りてくる   中井

 

歌曲「冬の旅」がどうしても言いたかったようですね。銀河も凍てつくような寒さの中天体音楽が聞こえるという感覚はわかります。わかりますが、こんどはシューベルトですか。さて初折の裏も中ほどになったのでそろそろ恋の句をお願いしましょうか。

 

心の奥につぶやく瞳  正藤

 

冬の夜空に輝く星々のようにきらめくその瞳が、今も心にささやき続ける。これは、恋の呼び出しというよりは、永遠の恋ってかんじですね。キラキラと濡れて輝く瞳。

来月は恋ですね。

 

 

 

 

石蕗あかりの巻 満尾

いかにも名のある紫陽花とみました。七段花?墨田の花火?

いよいよ名残の裏。緑の美しい庭に面した会場にはすでに一句目が出ておりました

 

北塞ぐフラワーロックの一休み   佐藤

 

フラワーロックというもの存じませんでしたが、鉢植えの花みたいなすがたで音

(というか空気の振動?)に反応して動くという玩具なのだそうです。

 

肉より淡きたましひの色  おるか

 

どういう付け筋なんだ?!という二句目ですね。初案は音に関した句だったのですが、以前の句に使われている表現を避けているうちにこうなりました。歌仙の終わり近くになると、この問題が起きます。

 

浅春の限界集落また一つ  小林

 

ようやく春が訪れて、自然は緑の命を吹き返すけれど、人間のほうは、ますます減って淋しくなってゆく。人類だけが永遠に栄えるわけはないんですから、そういうものでしょう。

 

自転車かごに麗か積んで  露花

 

限界集落だろうと荒野だろうと、春の光の中を自転車でちょっと出かけてみる。降り注ぐ陽光が籠の積み荷なのだ!。いいですね。ポジティブでかつ詩的です。

さていよいよ花の定座です。

 

しづけさやさくらはさくら人は人  山椒魚

 

いい句ですね!すばらしい! 人は様々な思いを抱いて花の下に佇み、桜は桜自身の命の花をいとなむ。この静けさは深い。桜の句はさまざまありますが、こういう視点の句は、なかなかないのでは?

 

初虹はるかふるさとの道   平井

 

きれいにまとめましたね!音韻がまず美しい。静けさの中で花と対峙し、初虹を遥かに眺めやりながらふるさとの道をたどれば、冒頭の庭園へとかいきしてゆくとも思えます。

大雪などで、途中お休みもありましたがついに満尾!

 

 

歌仙「石蕗あかり」の巻名残表

山頭火のお軸を床の間に

冬の間なかなか集まることが出来なかったので、久しぶりに顔を合わせての歌仙です。前回は花の座に

 

 地震の地に生きて桜の咲き初むる  笹次

 

元旦の大地震でした。瓦礫に帰した土地にも花は咲き出だす。付けは

 

蜃気楼へと鳥の飛び立つ  平井

 

儚く消えそうなあてどないものへむかって、しかし、果敢に飛び立っ鳥の姿。早いものでもう春四月です。名残の表は無季の長句

 

きざはしへ瑞枝翳して鎮もれる  正藤

 

季語は使ってないけれど、当季の気分の句ですね。荘厳ともいえるみずみずしいの枝のあり様。

 

日の移り来し仲良し地蔵  中江

前句の「きざはし」は地蔵堂へと向かう道だったのですね。一転して和やかな景色。

 

青葉騒をとこの影を追ひかけて  笹次

 

青葉の騒ぐ音の中を駆けてゆく二人。 のっけからやや不穏な恋の情景。

 

香水変へたねと言はれても  橋本 

 

もう元に戻ることはできない…のかな?

 

朝まだきふとそのひとを想ふとき   小林

 

朝の、今だ夢の気配が残る中、思うのその人。しみじみとします。

 

ほらヘルメットあるから乗れよ  露花

 

ぶっきらぼうなとこが、かっこいい!夢うつつの気分から、オートバイで一気に走り去ってゆく恋の終わり。

さて次は秋の句をお願いしましょう。

 

兄ぼつり弟ぽつり良夜かな  山椒魚

 

秋の月、早めに出ましたね。こうなると前句の二人も兄弟のことだったみたいにも見えて、元気な兄弟も、年を経てしずかに月に照らされているかのよう。言葉も特にいらない二人の姿に見えてきます。

 

稲の香よぎるプラットホーム     正藤

 

小さな駅のホームなのでしょう。黄金色に実った稲の香りがふとただよってくる。電車はなかなか来ないみたいですね。

 

晩秋の落慶法要鐘を撞き   中井

 

お住まいのところのちかくで落慶法要があったんですって。秋も終わりのよう。

 

炎を囲む沈黙長し   平井

 

無季の短句は難しいものですが、にぎやかな落慶法要から、護摩を焚いたり、神事の火を焚いたりする様のようでもあり、同時に炎を見つめ己を見つめる内省的な気分もうかがえて、うまい付けですね。

 

縁側に猫丸くゐる昼下がり  中江

 

平和です。無季を二句挟んだので,次は冬の句を

 

湯豆腐締めに杯を重ねて  笹次

 

えっ!湯豆腐が締めですか。私にはメインディッシュですよ。健啖でいらっしゃるんですね。でも寒くなる時分の楽しみと言ったら鍋で一杯やることですよね。

 

あっというまに名残の表終わっちゃいました。たのしかった。次回は早くも名残の裏です。