冬の間なかなか集まることが出来なかったので、久しぶりに顔を合わせての歌仙です。前回は花の座に
地震の地に生きて桜の咲き初むる 笹次
元旦の大地震でした。瓦礫に帰した土地にも花は咲き出だす。付けは
蜃気楼へと鳥の飛び立つ 平井
儚く消えそうなあてどないものへむかって、しかし、果敢に飛び立っ鳥の姿。早いものでもう春四月です。名残の表は無季の長句
きざはしへ瑞枝翳して鎮もれる 正藤
季語は使ってないけれど、当季の気分の句ですね。荘厳ともいえるみずみずしいの枝のあり様。
日の移り来し仲良し地蔵 中江
前句の「きざはし」は地蔵堂へと向かう道だったのですね。一転して和やかな景色。
青葉騒をとこの影を追ひかけて 笹次
青葉の騒ぐ音の中を駆けてゆく二人。 のっけからやや不穏な恋の情景。
香水変へたねと言はれても 橋本
もう元に戻ることはできない…のかな?
朝まだきふとそのひとを想ふとき 小林
朝の、今だ夢の気配が残る中、思うのその人。しみじみとします。
ほらヘルメットあるから乗れよ 露花
ぶっきらぼうなとこが、かっこいい!夢うつつの気分から、オートバイで一気に走り去ってゆく恋の終わり。
さて次は秋の句をお願いしましょう。
兄ぼつり弟ぽつり良夜かな 山椒魚
秋の月、早めに出ましたね。こうなると前句の二人も兄弟のことだったみたいにも見えて、元気な兄弟も、年を経てしずかに月に照らされているかのよう。言葉も特にいらない二人の姿に見えてきます。
稲の香よぎるプラットホーム 正藤
小さな駅のホームなのでしょう。黄金色に実った稲の香りがふとただよってくる。電車はなかなか来ないみたいですね。
晩秋の落慶法要鐘を撞き 中井
お住まいのところのちかくで落慶法要があったんですって。秋も終わりのよう。
炎を囲む沈黙長し 平井
無季の短句は難しいものですが、にぎやかな落慶法要から、護摩を焚いたり、神事の火を焚いたりする様のようでもあり、同時に炎を見つめ己を見つめる内省的な気分もうかがえて、うまい付けですね。
縁側に猫丸くゐる昼下がり 中江
平和です。無季を二句挟んだので,次は冬の句を
湯豆腐締めに杯を重ねて 笹次
えっ!湯豆腐が締めですか。私にはメインディッシュですよ。健啖でいらっしゃるんですね。でも寒くなる時分の楽しみと言ったら鍋で一杯やることですよね。
あっというまに名残の表終わっちゃいました。たのしかった。次回は早くも名残の裏です。