かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

歌仙「大山蓮華の巻」十月

芭蕉館の庭の返り花。

さて先月は、恋の句の後

 

黒柿の上がり框に腰を据え  佐藤

と淡々としたようすでしたが、今月その後に

 

過ぎし日のことたぐり寄せつつ  笹次

 

これで、恋の終わりらしくなりました。上がり框にゆったりと腰を据えて何事も無いような顔をしている人物も、心のなかは複雑だったのですね。

次は秋の句

 

湯の香り金木犀の香にまぎれ  平井

 

湯の町の秋の景色ですね。

 

セーラー服に赤い羽根付け  正藤

 

なんとなく地味な句が多かったので、これで少しは明るくなりましたでしょうか。

 

珈琲の冷めぬ間の秋思ふと  林

 

ほんのつかの間の物思い。秋思なんて、そんな大仰なものではありませんよという顔ですが、何かにつけてものを思ってしまうのが、物思いというものですね。次は無季の句

 

読みかけの本窓の辺に伏せ  橋本

最近は三冊同時に読んでいますので、すぐに伏せます。もう一つ無季の句を、

 

鳥声に耳を傾けしばらくを  中江

 

秋空から、鳥の声もいろいろふってきます。

十一句目に遅めの冬の月を出したいので次の十句目も冬の句おねがいしましょう・

 

こころたひらに茶の花日和   佐藤

 

きれいですね。茶の花日和って、おだやかな初冬らしい。

 

渓流の川面に歪む寒の月  正藤

 

これは寒そう。

 

ながれながれてながれてながれ  平井

 

うまいなー!名残の表はさらさらすすみましたので、もう一句いけそう・名残の裏の第一句は

 

日めくりのけふの言葉のあたたかく   笹次

 

日めくりのカレンダー、今日は何の日かとか、俳句とかいろいろ情報が載っています。「今日の言葉」を楽しみにしている方も多いようです。暖かな言葉と、ようやく暖かになってきた春の季節感とが重なり合う、おだやかな一句です。

さて、来月はいよいよこの歌仙も大団円かな

 

 

 

 

歌仙「大山蓮華の巻」九月

芭蕉の館の秋草の花

秋の雨らしい、しめやかな降りの午後、久しぶりで歌仙をまきました。

前回は初折の裏、花の座の

 

一片の花を払いて傘たたむ  正藤

 

のあと

そっと寄り添い揚羽の後を  林

という恋の句でしたので、恋の続きです。すでに寄り添いあう二人は揚羽蝶を追って山道を行きます。

夏の句になります。

 

岩陰の小さき泉に唇づけて  橋本

 

胡弓の音色胸にたたみて   中江

 

「手」止めがつづいてしましましたね。ワイワイ話しながら歌仙を巻いているとついうっかりしてしまって。面目ない。でも、すでに別れの気分ですね。

 

黒柿の上がり框に腰据えて  佐藤

 

古めかしい宿にたどり着いた模様です

 

 

 

 

 

六月の歌仙「大山蓮華の巻」

芭蕉の館、玄関をかざる黒い百合。良い色ですね。

先月は初折の裏に入ったところでした。秋の句

 

銀杏散る寺の法語に立ち止まり  中江

まででした。銀杏の明るい黄色の世界の中に思いの深さの漂う美しい句ですね。

次は無季の七七おねがいします。

 

湯気街道にスマホかざして   林

 

ゆげ街道は山中温泉のメインストリートですが、温泉の町らしい名前です。観光旅行の気分でしょうね。無季の句もうすこしつづけましょうか。

 

海沿いの路面電車で地震のこと  平井

 

能登へ行ってらしたそうです。桜に埋もれる駅のある小さな路面電車の路線は能登らしくのどかな眺めが車窓に広がっていたものでしたが、今は、話はどうしても地震のことになる。復興はなかなか速やかにはいかないものでしょうけれど。

さて、旅を続けましょうか。次は冬の句おねがいします。

 

冬らしくある町一人占め   佐藤

 

気ままな一人旅に、ふと電車を降りた淋しい町。能登の風景を想像するとすっごく淋しい。

 

木枯らしや船繋がれて獣めく  正藤

 

木枯らしの中、係留されたままの船が、あたかも繋がれた獣のようだ。打ち捨てられた淋しい光景というだけでなく、そこに荒ぶるものを感じている。作者の感性を感じます。

 

古き暖簾につつく牡蛎鍋  新後

 

能登は牡蛎が美味しいんです。暖簾の古い老舗料亭もあるでしょうね。冬の能登の旅。いいですね~。

 

若者の受け継ぐ気合い鞴の火  林

 

鞴で火をおこすとなると、古代の製鉄とか、でしょう。気合いを受け継ぐとは、刀鍛冶か何かでしょうか。鎌も刃物ですね。能登には神木に鎌を立てる鎌立て神事というのがあります。やや不気なは呪術的雰囲気の神事ですね。

今回はここまで。

 

   

 

 

 

 

五月の歌仙「大山蓮華」の巻はじまりました

【芭蕉の館」にいけてあった大山蓮華。天国のような香りはいまだ白玉のような蕾の中に、籠っています。良い花ですね。低木なのも好ましい。

さて発句です。

 

ひそとある大山蓮華芭蕉館  佐藤。

 

まずはこの場への挨拶から。こういうのが、いかにも歌仙らしい。脇は当然亭主の館長さんでしょう。

 

衣更して戦の話  平井

 

世界中あちこちで、きな臭い昨今です。日本の平和憲法の先行きも心配になってくる気配ですし。ひそひそとささやかれている戦の話。

さて夏の句、当季ですし。たまにもう一句行きましょうか。

 

飛行機雲ほどけるままに秋隣   新後

 

飛行機雲って、どことなく哀愁がありますよね。日本の八月。晩夏のころは終戦記念日もありますし、そういう気持ちで見ると飛行機も、空中戦から消えてゆく感じ…かも。

 

鳥声を背に渓谷を歩す  正藤

 

無季の七七って難しいものですが。いかようにも展開できそうなシチュエーションを整えていただきました、

 

虚子愛でし黒谷橋の居待月  橋本

 

歌仙を巻きながら、あれこれおしゃべりをするのは楽しいものですが、この句はそういうお話を頂戴して、月の座に置かせてもらいました。自分だけではできない句が出来ちゃうのがm歌仙の楽しみでもありますね。黒谷橋は山中温泉の鶴仙渓にかかる橋です。

 

蒔絵士と酌む地の温め酒  笹次

 

山中塗の蒔絵、華麗なものですね。月を眺めながら一献にふさわしいかも。

さて、早くも初折の裏にはいります。秋の句もう一句。

 

銀杏散る寺の法語に立ち止まり  中江

 

黄金の銀杏の葉の休みなく散る中、とあるお寺の前に書かれていた法語に心惹かれて立ち止まる。心に沁みる言葉が書いてあったのでしょうね。思わず歩を止めるほどですから。

さて、来月、もう一句秋の句つづけましょうか。

 

歌仙「獅子舞の巻」満尾

葉桜です。

獅子舞の巻もついに名残の裏に入ります。

その前に、

先月は

京の都の鬼に出会って

南大門に高麗笛を聴く 笹次

大文字山を掠めて月冴ゆる  正藤

 と、冬の大文字山に冴えわたる月を見る、という風流というより、もはや風狂の旅人のすがたでした。さて名残の表の最後の一句は

 

底冷えなれば家の恋しく  新後

 

さすがに冬の旅に疲れたのか、里心がついたようです。名残の裏に入ります。

 

枝騒ぐ湯船に残る砂少し  橋本

 

家に帰ってゆっくりお風呂を使っています。もう一句無季の句を続けましょうか。

 

いつもどほりの朝餉のかほり  中江

 

旅という非日常からもどると「いつも通り」のよろしさが沁みる。その通りですね。

 

光る風飛行機雲の空を切り  佐藤

 

春の空というと、朧だったりのどかだったりするものですが、鋭い光の空もある。なかなか斬新です。

 

ホップステップ春のスカーフ  平井

 

芭蕉の館 館長の平井氏は絶対に重くならないことを決意していらっしゃるようです。

さてつぎは、いよいよ花の座です。

 

手をあげてさくらさくらとたはぶれて   林

 

「あそびをせんとやうまれけん戯せんとやうまれけん…」梁塵秘抄のなかでも、もっともよく知られた歌ですね。花の下で陶然として我を忘れる。いい句ですね。

さて挙句は

 

昨夜(よべ)よりの雨聞く夏隣り   正藤

 

春の季語が出尽くした後で、「暮れの春」「春惜しむ」も打越に引っ掛かるから駄目、という挙句のむずかしさに珍しく悩んでいらっしゃるようでした。雨の音に夏も近いことを感じて、満尾となりました。

らいげつは、どんな歌仙が始まるでしょう。楽しみです。

 

 

 

 

 

芭蕉の館歌仙「獅子舞の巻」三月

蕗の薹発見!。独特の緑です。ほろ苦さが春の味。

 

さて先月は

 

夏枯れに大人買いして大いびき  新後

 

商店街の夏枯れだそうです。客足も途絶えがちな夏枯れのお店であえて大人買いして気分よく昼寝?豪快なのか?屈折してるのか?

 

風鈴の鳴る夕餉となりて  正藤

 

サラリと巧くつけています。なんとなく口数も少なく食べていると頃へ、風鈴の音が聞こえてくる。涼しげでもあり、どことなく淋しげでもある。

 

寄り物にハングル文字のブイいくつ   笹次

 

「寄り物」とは海岸に流れ寄ったもののことだそうです。世界中のゴミが流れ寄りますが、日本海側はさすがにハングル文字のものも多いのでしょう。福井県小浜市はむかしから漂着仏の伝説が多いところですが、今も歴史博物館には華麗な迦楼羅の像があって、こんな美々しい像が漂着したのか!とおどろかされます。

 

海あをくして心たひらに   佐藤

サラリと次へ渡す、こういう句も必要です。無季の句ですし。次は秋の句をおねがいしましょう。

 

垣根越し会釈をかはす秋日傘  中江

 

秋とは言ってもまだまだ暑いのでしょう。日傘のままに会釈する。なかなかエレガントです。印象派の絵のよう。

 

大根(だいこ)撒きをへひとり京都へ  林

 

秋日傘のご婦人から農作業を終えて心おきなく旅立つ人へ。京都には何があるんでしょう。紅葉かな。

 

行き暮れて鬼はいづこぞ紅葉狩り  平井

 

たしかに京都の紅葉には、魔に魅入られそうなあでやかさがありますね。謡曲の一節のよう。つぎは又、無季を一つ挟みましょうか。

 

南大門に高麗笛をきく   笹次

 

うまい!都の大門のうえは鬼の住むところ。平安時代の笛の名手が夜に笛を吹きながら通りがかると、門の上から鬼が「あな、おもしろ!」と叫んだとか、名笛をくれたとかいう逸話があります。鬼は笛を吹くものなんですね。遠く古代ギリシアでもアポロンの竪琴に対して、ディオニュソスや牧神パーンは笛を吹くものとされています。明るく理性的な弦楽器に対して笛はより情動的と考えられていたのでしょうか。さて、次は冬の句、そして月の句をおねがいしましょう。

 

大文字山を掠めて月冴ゆる   正藤

 

冬の京都も良いですねー。さて、らいげつは、もう名残の裏に入りそうですね。

 

歌仙「獅子舞」の巻二月

加賀市山中温泉芭蕉の館のお雛様飾り。一番前に、三人の仕丁がいるのが、めずらしい。そういえば去年もこのお雛様の写真を乗せたかもしれません。もう一年経つんだなー。

さて、先月までに一気に初折の裏九句まで進みました。あまり早くてちょっとギューギューになってしまいましたので、秋の句の後、すぐ花座にはいります。

夜は星を昼は影乗せ水澄めり  正藤

 

あやとりはしのカーブまがりて  中江

 

あやとり橋は山中温泉の名所の一つ。高い渓谷の上に曲を描いてかかっています。淵を見下ろす気分でしょうか。次は早くも花の定座です。

 

うしろ髪ひかれふりむく遅桜  佐藤

 

花に振り向くのは、やはり美人が似合う気がするので、恋の呼び出しの気分で、初折の裏の終わりにしたいところです。

 

指切りをして春惜しむ虹  平井

 

虹は夏の季語ですが、春の虹、秋の虹という言い方も良く目にします。「春惜しむ虹」にしたところが味わい深い。惜春の情は恋に似ている。指切りをして約束しているのは少年少女なのでしょう。

名残の表にはいりますが、はるのくは三句くらい続けるのが常道だそうですのでもう一句春。そして恋。

 

たとへれば都忘れのやうなひと   林

 

都忘れって春の花だったんですね。打越が花の句でしたから、草本と云えど花の名は避けたいところですが、女性の比喩であるから、なんとなく季節感は薄いかな、という感じ。つぎは無季の句を挟みましょう。

 

手紙の内に残る押し花  橋本

 

すでに恋は思い出になって古い手紙の中に。つぎは夏の句へ

 

夏枯れに大人買ひして大いびき   新後

 

押し花の枯色から「夏枯れ」を発想なさったそうです。それにしても、よほど良い買い物なさったのでしょうね。

来月、次回はきっと春らしくなっているのでしょうね。楽しみです。

 

さて