かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

歌仙「万緑」の巻十月

急に寒くなって、寒がりの私は連句会の部屋に、早くもストーブを入れていただきました。さて、先月は秋の句

 

揺れてこそコスモスの色風の色   正藤

 

コスモスは揺れてこそ美しい。その通りです。風の色が見えるという表現も優。共感できます。ただし、良い句の後に付けるのはむずかしい。さて。

 

銀杏拾ふ仲間となりて  中江

 

ささやき交わしているかのようなコスモスの景色から、あちらこちらと銀杏を拾う人たちに仲間入りする光景。上手い付けです。二つの光景の明るさや動きが通底していると感じました。秋の句、もう一つおねがいしましょう。

 

畑仕事即かず離れず秋の蝶  林。

 

こういうことありますね。何故か蝶が寄ってくること。儚くも哀れ。

畑仕事が、やや説明的かな。

 

出会いがしらに猫だましされ   平井

 

面白い!しかし、どういうお友達なんですか!猫だましって!さて次は月の座です。「冬の月」がすでに出ているので「月凍てて」とか「寒月光」とか悩みましたが、連中の皆様のお力をいただいて、

 

山峡の流れに歪む寒の月   橋

 

冬の句もう一句おねがいします。

 

冬ざれ凌ぐ庭師の手入れ   正藤

 

庭師さんのたゆまぬお手入れで、冬ざれるということなど全くない庭である!とのこと。さすが加賀の庭師さん。

さて、早くも名残の裏に入りました。無季の句を挟みましょうか。

 

鯉跳ねて飛び石一つ踏みはづし   中江

 

上手い!庭園池に錦鯉が飼われているのでしょうね。生きる宝石とまで言われる錦鯉が跳ねて、おもわずとびいしをふみはずす。動きがあって面白く、明るさも感じられます。

 

思ひ出したる夫との用事  佐藤

 

これまた上手い!ふとした出来事が引き金になって、記憶がよみがえることは、ありますね。天啓がひらめくこともあるのかもしれません。有名なところでは、プルーストの「不揃いの舗石」の逸話でしょう。不揃いの舖石を踏んだとたんにヴェネチアのの思い出といいますか、イメージがまざまざと甦る。いいシーンですよね!

軽やかな表現で、実に上手い付け!

 

さて来月は名残の裏のその残り。花の定座が待っています。楽しみ!

 

歌仙万緑の巻 九月

さて朝夕はようやく涼しくなってまいりました。歌仙もいよいよ名残に入りました。

先月は、花の定座から

春たけなはに鯛焼を食む   佐藤

 

の飄逸な一句でおわりました。次は無季の句

 

ランダムに選んだ街に旅をして   橋

 

浮雲しばし夕日に染めて  正藤

 

次は夏の句お願いします。

 

闇掬ふ二の腕白き盆踊り   平井

 

盆踊りはこの世に訪れた死者とも、、ともに踊って、送るという意味があります。

哀感がありますね。しなやかの動きは闇をすくう動作だという表現は、いいですね!

 

そろいのピアス髪に隠して  林

 

恋の始まりになりました。お揃いのピアスをわざわざ髪で隠すのは、恥じらいでしょうか。それとも、わけあり?

 

珈琲の湯気と香と思い出と  佐藤

 

あらら、恋はもう終わりで思い出になってる。コーヒーにまつわる思い出もいっぱいあるのでしょうね。

 

錆を纏ひし抽斗の鍵   橋

 

思い出は深く秘めましょう。次は秋の句を。

 

揺れてこそコスモスの色風の色   正藤

 

たしかに揺れてこそコスモスは美しい。風も見える気がする。軽やかで美しい。

今回も良い句がありました。来月はいよいよ名残の表も終わって名残の裏にはいるかな?

芭蕉の館歌仙万緑の巻

芭蕉の館のお庭も残暑の中。初折の裏の七句め。恋の句所望!

 

砂浜に肩を並べて朝日待つ  中江

 

夜明けの海岸に朝日を待つ二人。ロマンチックです。次も無季の句七七。

 

影に吸わるるも一つの影  おるか

 

影ってそういうものじゃないですか?!恋句もう一つお願いしましょう。

 

足からめ憩ふ足湯の杖二つ  正藤

 

足湯で足を絡めてる!のぼせそうです。しかも杖を突いているお二人なんですね!次は春の句おねがいします。

 

夢からさめて淡雪ちらり  平井

 

上手い!恋の夢からも覚めて窓に降る淡雪を見る。重くならず、きれいで良い付けです。さて次は花の定座。

 

散り初むる桜並木を借景に  林

 

花の並木を借景にお茶など飲むのかな?さて初折の表も次で最後です。

 

春たけなわに鯛焼を喰む  佐藤

 

飄逸ですねー。さて、はやくも来月は名残に入ります。どんな展開が待っているでしょう。楽しみです。

 

 

歌仙「万緑の巻」始まりました!

矢筈芒に桔梗、涼し気な取り合わせのお花ですね。さて、芭蕉の館の連句会新たな歌仙を巻くために発句は出勝ちではじめました。いかにも立句という感じのこの句をいただきました。

 

 万緑の真只中に不動尊  中江

 

力感に充ち満ちた句ですね。緑の中に、天守閣が見えるとか、「緑の中に〇〇」という句は多いけれど、万緑と不動尊はいいとりあわせだとおもいました。脇は

 

黙して辿る滝までの道  おるか

 

前述の不動尊の近くに滝があるとのことでしたので。三句目は無季でお願いしましょう。

 

句碑を訪ふ葉擦れのさやぎ肩に触れ  正藤

 

自然な流れですね。滝やら木立の中の道を抜けて句碑をたずねる。さわやかです。

 

外人客に声かけられて  平井

 

道を行くのは自分ばかりではなかった。観光客も歩いていらっしゃる。さて次は秋の月でお願いしましょう。

 

雲切れて役者のごとく月出づる  林

 

幕が上がって、見得を切る役者のごとく、お見事な月が洗われた。面白い句です。

 

悔い残したる蛇穴に入る  佐藤

 

ハハハ、おもしろい!蛇も後悔することがあるのでしょうか。もっとたくさん食べておけばよかった、とか?

 

新蕎麦の汁に落ちたる名残の日  おるか

 

蕎麦通と言われて、蕎麦に汁をつけるか付けないかでシュルッと粋に食べてきた人が、まつごの時に「一度でいいから蕎麦に汁をタップり付けて食ってみたかった」と言ったという哀れにもおかしいはなしがありますが、悔いを残すと言えばそれかな、と思ったので。

 

衝立ごしに交わす挨拶  中江

 

蕎麦屋さんの風景かな。

 

宙返りそれから先は考へず   平井

 

な、なんていう付けでしょう!先の展開、確かに考えてくれてませんね。次は冬の句お願いしましょう。

 

寒風頬を咬む駅に立つ   正藤

 

いかにも寒い。

 

ぽつねんと街角ピアノ冬の月  佐藤

 

街角や駅のピアノ、最近よく見かけますね。私も連句会の前にいつも近くの街角ピアノ弾きます。駅のピアノも通りがかりに、空いていれば弾きます。

 

枝先抜けて凩の音  林

 

木枯らしのエチュードですね。もろに。この曲難易度高いので、私には弾けません。ラフマニノフ弾こうと思って腱鞘炎になりましたしね。

さて、来月は花の定座までの無季の句のあたりで恋を出したいと思います。楽しみですねー。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コスモス活けて」の巻満尾

芭蕉の館の床の間の花は八重どくだみ。

さて、先月は名残の表の九句目

瀬の音を淵に残して鮭のぼり   平井

まででした。秋の句続けます。

 

お薬師さんの秋深まりて   中江

 

『何でお薬師さんなのか?』というのがちょっとわからないんですけど、御近所だったらしいです。

 

口笛の坂を消えゆく居待月  橋本

 

ひとり静かに聴くセレナーデ   林

 

セレナーデがお好きなのでしょうね。モーツァルトかな。シューベルトかな。

ただ、セレナーデは、恋人の窓の下で歌う歌というイマージがあるので、私だったら、ひとり聴くという状況では選ばないかな?という気もします。でも、きっとおすきでいつも聞いていらっしゃるのでしょう。

さて、名残も裏に入りました。冬の句おねがいします。

 

風にのる銀杏落葉のゆくへとふ   さとう

 

うーんまるでヴェルレーヌ。「秋の日のヴィオロンの」でも季語としては落ち葉は初冬らしいです。歴史的仮名遣いが魅力的。

 

ひと言ありて節分の鬼  平井

 

ははは面白い。鬼だって言い分が在りますよね。ただ、うちこしの「一人静かに」と「一つ」が重なっちゃうんですけど、まぁ、面白いから、良いとしましょう。

 

淡き日の縁に句帳の忘られて  中江

 

  縁側に句帳が置き忘れられている。何となく春めいた感じが漂うきれいな句ですね。

 

鶯餅のややに歪みて   橋本

 

苦肉の一句でした。全然思い浮かばなくて。さてついに花の定座

 

ふる里の川に桜の名所あり   林

 

故郷の川のなつかしさ。おそらく「日本の桜名所百選」なんてのに選ばれるほどでもないおとなしい名所なのでしょうけれど、それが日本の故里らしくてしみじみとなつかしい。

 

ゆげ街道の囀絶えず   佐藤

 

高野ムツオ先生の山中の地への挨拶の句から始まったこの歌仙。山中温泉のゆげ街道にキラキラとこぼれる囀りに、明るさが満ちている。見事に円環が閉じました。

それにしても、この歌仙随分長くかかりました。冬の間大雪で、お休みが多かったからしかたありませんね。

 

 

歌仙「コスモス活けて」の巻  名残

庭に、芍薬が咲きました。ゴージャスでいながら、どこか楚々とした風情のあるのが芍薬の魅力ですね。ほのかな香りも奥ゆかしい。花瓶の雨過天晴も感じが出てますでしょ!

さて、先月は花びらに埋め尽くされた川面にパクパクとあぎとう鯉からシャボン玉に母と子が吹き込む息という『息』つながりでした。名残に入りましたので、恋など欲しいところ。

連弾を終えて沈黙長きこと  橋本

 

息をそろえて連弾の後、黙り込んでいると、音楽に消されていたお互いの呼吸が耳についてくる、ものですよ…ね?。

 

気になる人と影の近寄り  正藤

 

これは、影が近づいて、そして…❣という展開というより、たまたま影が近寄っただけで、ドキドキしてしまう少年少女のごとき恋の気分でしょう。多分。

 

何か言ふ何かいはるる時を待つ   佐藤

 

何か決定的なことを相手が言うのを待っている恋の終わりの気分だそうですが、難しい。

大山蓮華ぽたりと落ちて   平井

 

館長さんお見事!これで恋が終わった感じになりました。

 

ライダーは八十路の女夏盛ん  中江

 

ヘルメットを脱ぐとさらっとこぼれる白髪。カッコいー!知り合いのかただそうですが、すてきですね。それではヘルメットつながりで、

 

バットをしまふ夕雲の峰  橋本

 

 

鳥声に憩ふベンチの杖二つ  正藤

「ベンチに」ではどうか、と申し上げましたら「に」はちょっと…だそうでした。「の」の方がやわらかいですね。

 

 

ふわりゆらりと風の生まれて   佐藤

 

風って、どこで生まれるのでしょうね。地球の回転、空気の温度差、それよりも…。

さて名残の表は、月が一度出ればよいだけなので、ゆったり進めてまいりましたが、そろそろ秋の句にしましょうか。そして十一句目の長句に秋の月を持ってくることにしましょう。

 

瀬の音を渕に残して鮭のぼる   平井

 

静かな渕に憩うのもつかの間、より上流を果敢に目指す鮭の群れ、『瀬の音を渕に残して」良い表現です。力強く勢いがある。

この辺りで、今回は時間ですね。来月が楽しみです。

 

 

 

歌仙「コスモス活けて」の巻

長く厳しい冬の間、ずっとお休みしていましたが、ようやく暖かくなって、歌仙も再開です。

芭蕉の館から見下ろす庭の枝垂桜。ゴージャス!

さて初折の裏はずっと旅でしたので、そろそろ旅も終わりにしたい、というところで。

 

家庭の味の恋しき夕べ  平井

 

家路を急ぐ人波の中、旅にある身の心もとなさがひとしお感じられる。わかります。自分以外のだれもが帰るところがあるのだ…なんていじけたり。

 

玄関に子供の靴の散らばりて  中江

 

と、いうわけで放浪の主人公は家に帰った。玄関を開けたとたんに目に飛び込んでくる家庭の喧騒。「ちゃんと片付けなさい!」なんて文句を言っていたその乱雑ぶりもむしろ嬉しく感じちゃうのでしょうね。さて大急ぎで秋に入ります。

 

桐一葉降る音遠ち近ちに  おるか

 

枯葉も乱雑に降ってくる、というところ。秋の月そろそろ出していただきましょう。

 

雲逸れてひと際極む月今宵   正藤

 

雲さえも逸れてながれる月の威力。まさに名月!

 

生命線の細くて長き  佐藤

 

月光に「じっと手を見る」。

細くて長い人生なのか。めでたいような めんどうなような。

さてもう花の定座です。

 

花筏まみれあぎとふ鯉の口   平井

 

「あぎとふ」はさかなのくちをぱくぱくさせることです。花筏で酸欠になるほどの落花なのでしょう。

 

シャボン玉吹く母と子の息   中江

 

こちらも息を使ってきれいなシャボン玉をとばす。きれいな付けですね。

 

さて、これで初折の裏も終わり。次回は名残の表ですね。読み返すと恋がないので、来月は恋になるのかな