まだ句が、書き込まれる前の、下絵。この上にどんな展開が、あるのでしょうか。
発句は
庭園の石蕗のあかりのひとところ 佐藤
この日の会場、芭蕉の館の玄関には石蕗の花がいけてありました。ぱっと明るい黄色が目に飛び込みます。さて、脇は
瀬音眠らず山眠り初む 正藤
冬枯れの山に高く響いて聞こえる瀬音。夜ともなればひとしおです。「瀬音眠らず」という表現うまい。
そして「山眠る」は面白い冬の季語ですがそれを対比的に持ってきたところが実に巧者という感じ。
湯の里に生きて五代目寒造り 笹次
作者の御令息が、まさに五代目でいらっしゃるのだそうです。すばらしい。
手取りの軽き金継ぎの椀 平井
何代も続く旧家には様々なしきたりも、骨とう品もあることでしょう。それらを大切にまもり、割れた器は金継ぎをして大切に使っているのですね、漆の椀の手取りは軽い。山中塗なのでしょうね。
春の月埃もろとも本を売り 橋本
「売り家と唐風に書く三代目」って狂歌じゃないけど、なんだか家運が傾いてきたような感じがしちゃいますね、すみません。
二度寝を覚ます亀の鳴くなり 佐藤
面白い。亀鳴くは使ってみたい季語のひとつですが、わたしは、いまだこれというものはつくれません。軽みがうまいな。
初折の裏に入ります。春の句もう一句お願いしましょうか、
師を囲み賑はひ解かぬ夕霞 正藤
春の長い日暮れの時間も歓談は尽きない。夕霞の中の人影はそのまま仙人たちのようにも見えてくる…のかな?
さてこの後、突然懐かしの昭和 三句つづきます、無季の句をお願いしただけなんですけど。
洋もく胸に哀愁酒場 笹次
洋もくって外国製の煙草のことで、哀愁酒場は昭和歌謡の題名ではなく、実際に、ただ哀愁のただよう酒場のことなんだそうです。
飴舐めて「黄金バット」の紙芝居 平井
黄金バットってテレビアニメで見たことがあるような気がしますが、もとは紙芝居だったんですか。そっちのほうが味わいがありそうですね。
岬をめぐるボンネットバス 橋本
さて来月は夏の句に参りましょう。