かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

新涼の風の巻十月

会場の「芭蕉の館」のお庭。やや色づき始めた風情です。さて、先月は名残の表の、冬の月がでたところまででした。もう一句冬の句をお願いしましょう。

 

 霜夜の鶴の遠ざかりゆく  平井

 

霜夜の鶴とは凍鶴と同様、寒さに耐える姿の鶴で、ひとかたまりの季語だそうです。普通は羽毛のなかに嘴をいれ片足を上げてじっとしている姿を思い泛べますが、この鶴は飛んでいるんでしょうか。

さて、ついに名残の裏に入ります。無季の句を挟みましょう。

 

磴百段立ち止まりては空仰ぐ   中江

 

百段も続く石段、それは時々立ち止まりますよね。見上げる空に果てに鶴は消えてゆくのか。

 

鐘の音消ゆるまでのはるけさ  橋本

 

石段を上り詰めたところに、鐘楼があった…のかな?

 

 

老夫婦指さす先のすみれ草   井上

 

良い句ですね。ようやく暖かくなった春の日に、小さな花を見つけて微笑みかわす二人。

名残の裏は生老病死などは避けるといいますが、この句は、むしろ御能の高砂みたいにめでたささえ感じます。味わい深い一句。

 

鶴仙渓の少し暖か  佐藤

 

鶴仙渓山中温泉の名勝で遊歩道の苔の緑も美しく、春の花、夏の川床、秋の紅葉も有名です。谷沿いなので冬は寒いけど、お天気に誘われて出かけたくなるのも春らしい。

次はついに花の定座です。

 

花吹雪笑みのこぼれて角隠し   中江

 

万朶の花の絢爛たる花吹雪の中にこぼれる笑顔。その後ろの「角隠し」という言葉に一瞬驚きますが、花嫁のえがおであったのか、と、いっそうめでたさが強調されます。花と花嫁、はなやかですね。

 

水面をゆらす霞かぐわし  平井

 

おーっと、何となく寂し気な挙句のような気もしますが、それまでの流れが、明るかったせいでしょうね。

今回の「新涼の風」の巻は、あっというまに満尾になったような気がします。

さて来月からは、またあたらしい歌仙がはじまります。お楽しみに。