かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

七月の歌仙「山眠るの巻」

梅雨の戻りのような雨催うのお天気の中、連衆がそろって、七月の歌仙を巻きました。

名残の表の最後。十句めからです。先月は秋の句

九句目  峡の日の銀杏紅葉に移り来し   中江

という秋の句で終わっていましたので、無季の句を一つ挟んで月の定座へ、向おうか、と。

十句 手を振ればすぐ振りかへされて  中江

 

銀杏紅葉の下で手を振って別れる、という図でしょうか。手を振り返してくれるのはうれしいけれどあまりすぐだと、「向こうはさよならするのを何とも思ってないのだな…」とほんの少しだけれど、物足りなく思うような微妙な機微をつかんで面白い付けです。つぎは月を出してもらいましょう。

 

 寒の月琵琶湖をのぞむ仏たち   笹次

 

すばらしい。琵琶湖のまわり、特に湖北には素晴らしい仏様たちがいらっしゃいます。渡岸寺の国宝の十一面観音立像を見た日のことは忘れられません。誰の小説だったか、月の琵琶湖をめぐって御仏の姿がほのかに輝くのを幻視する、夢幻的なラストシーンがありました。白洲正子の「近江山河抄」「十一面間の巡礼」などエッセーにも多く書かれてきました。私も若いときに湖北のあちこち尋ねあるいたものですよ。

前の句とのつながりが読めない?ええっとまぁそれはそれ。観音様が手を振ってくれたらうれしいし。千手観音が手を振ると、ちょっと怖いかも、ですけど。

もう一句冬の七七。

  波に委ねて一陣の鴨   正藤

良い付けですね。波に揺られて水鳥の群れは、寄る辺なく見えはしますが、きっと仏様に守られているのでしょう。ついでながら、琵琶湖って結構波ありますよね。

ただ、この歌仙の途中の既に鴨は一度出ていましたね。

さて、これで名残の表もおわり、いよいよ、名残の裏にはいります。無季の句をを挟みましょう。

 

ペン握り日ごろの多弁一句なし  井上

 

身につまされます。わたしは口の重い方ではありますが、一句もこれは、という句はありませんので。さて来月はいよいよこの「山眠る」の巻も満尾となるのでしょうか。

乞うご期待。

 

六月の歌仙「山眠るの巻」

今日の連句会に発表された句句。これだけの投句から選ぶんですから、面白くないわけがない!
 さて、名残の表の中ほどです。そろそろ「恋」もまた欲しいころ。

 

第5句  夕暮れに口笛吹いて罪と罰    元田

合図の口笛を吹いて誘い出す夕暮れの恋人は、ラスコーリニコフのような苦悩に満ちた瞳の青年なのか。難しい恋の予感がします。

 

第6句 ゴリラの気持ちわかるこの頃    平井

 

なんと!罪深い恋かと思ったらゴリラの気持ちが分かるとは!

ひたむきなのはわかりますが。いやはや奇想天外の恋。

無季の句を2句はさんでそろそろ秋の句にいたしましょう。

 

第7句  コスモスや囁き合うて頷いて   正藤

 

優しい秋の句。それでも「富士には月見草が良く似合う」ようにゴリラにコスモスもなかなか似合うと思います。と、言ったら、作者が「似合うと言われてもうれしくない」とつぶやかれたので、思わず笑ってしまいました。

 

第8句 刈田の案山子片付けぬまま   小林

 

刈り入れのすんだ田にぽつんととりのこされた案山子。淋しそうです。ついこの間まで、黄金に揺れる稲穂の波を守っていたのにね。

「刈り」「案山子」「片」とかさねられた乾いた「カ」の音が案山子のカクカクした感じを印象づけます。

 

第9句 峡の日の銀杏紅葉へ移り来し  中江

狭い谷の空を秋の日はみるみる移動して銀杏の木へ届いた。金色に色づいた銀杏紅葉はスポットライトが当たったように輝く。美しいです。

来月は名残の表も終わりになりますね。月の座がまっています。

 

 

 

五月の歌仙「山眠る」の巻

お床の花 こでまりと白糸草

枝ぶりも葉っぱも、とてもきれいなこでまりですね。感心しました。白糸草も寂しげな花ですがほのかな香りがたたずまいによく似合って味わい深い。

さて、今月はいよいよ名残の表にはいります。先月は「奥の細道春日傘征く」と旅への憧れが出ていましたから、旅の気分で無季の句をお願いしました。

名残表

ウクレレの指しなやかに湯町暮れ  笹次

 

旅の宿で、ウクレレを弾いている人。無聊をなぐさめているのでしょうか。旅にある身のそこはかとないもの憂さ。一抹の哀感がかんじられます。これもまた旅情というもの。

もう一句無季で、七七お願いします。

 

本格珈琲豆より挽いて   佐藤

 

さりげない、本当にただそれだけのこと、みたいな付けですが、しかし、旅の途中でふと立ち寄った、カフェが、雰囲気の良いお店でコーヒーもおいしかったりすると、忘れがたいものですよね。あの町の名前も忘れてしまったあの店のコーヒーおいしかったな、と後々まで記憶に残ったりするものです。

さて、三句目は夏の長句をおねがいしましょう。

 

軋みては現に戻る籐寝椅子  正藤

 

いいですね、夏の午睡。籐の寝椅子にまどろみながら、そんなに深く眠るわけでもないけれど一時この世をはなれて無可有郷に遊ぶ。こちらも一つの旅かも知れませんね。

付けの夏の七七は

 

蛍火にゆれ動き出す山   元田

 

いい付けですねー。蛍火の夢幻的は様子を、その背景に黒々とそびえる山のほうが動き出すと表現した。詩的です。前句の夢うつつの気分を見事に抑えて、かつ美しい。絶妙の付けをいただきました。

さて、今回は、投句数が多く秀句も多くて選ぶのに悩んで時間がかかってしまいました。出勝ちでこんなにたくさんの投句の中から捌かせていただく連句の会なんて、ほかにないのではないかと思います。来月も楽しみです。

四月の歌仙 山眠るの巻

会場の「芭蕉の館」の廊下。広間で歌仙を巻いています。

先月は月のくのところで

名残の月のつれなく見えて  平井

つれない月は恋の呼び出しと見まして次の句、初折の裏の7句目は恋の句をおねがいいたしました。

 

7句 風も木も街も私もやさしくて  佐藤

 

何もかもが優しい気分に輝いて見える。よっぽど幸せな恋なんでしょうねー。

 

8句 秘密の話ついついもらし  平井

 

やさしさについほだされて秘密を洩らしたくなる。親密さの深まりを感じます。

 

9句  過ぎし日の夢見て目覚む朝三時  中江

 

朝三時がリアルです。まだまだ暗いけれど、かといって夜とも言えない微妙な時間。過ぎし日のことと言っても完全に思い切れていないような雰囲気ですね。

さて、次は春の句をお願いしましょう。その次は花の定座ですから、植物は避けてくださいね。

 

10句  はだれ峯低く人増えて来し  笹次

 

雪に覆われて白く輝いていた時に比べてまだらな残雪ののこる斑雪の山は低いような身近なような感じがします。気候が良くなって外を出歩く人も増える。雪国の者にはよくわかる気分です。

 

11句花の定座 県境の峠超えれば花の山  佐藤

 

うーん、前句に「峰」があるのに峠、そして山も出してしまった。実は山中温泉から峠を越えたところに枝垂桜の公園があって、その話などしていたもので、つい。

 

12句 奥の細道春日傘征く  平井

 

春日傘をさして奥の細道を意気揚々とめぐる人。俳人ですね、きっと。

さて、来月はいよいよ名残に入ります。

 

 

歌仙「山眠る」の巻

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芭蕉の館 お庭の雪吊がもう窮屈そう。

一月二月と大雪やコロナのせいでお休みしておりましたが久しぶりでここ芭蕉の館に集って歌仙のつづきをすることができました。

初折のうらにはいったところでした。初折表は春の句が二句でしたので、せっかくの春めいた日でしたので春の句をまずは一句足すことにいたしました。

 

隠沼に静寂を返し鴨帰る  正藤

 

   渡り鳥で大賑わいだった沼も北の国に鳥たちの旅だった後はいつもの静寂が戻ってひっそりとしている。一抹の寂しさもあり美しい。

 

  市の瀬用水あふれんばかり  笹次

 

山中から山代温泉のあたりの用水だそうです。全国的にありそうな名前ではありますね。しかし、前句に「沼」があり初折表にも「水」があって、やや水っぽくなってしまいました。次は気分を変えたいところです。

 

大皿に幾何学紋の拡がりて   平井

 

これは古九谷の大皿でしょうね。古九谷の幾何学文様は大胆でモダンで素晴らしい意匠だとおもいます。さて、夏を飛ばして次は秋の句をお願いしましょう。

 

 松手入され甦る庭   正藤

 

大皿は宴の席にもふさわしい器でしょうね。眺めるお庭も手入れの行き届いた古木の松が、永遠の緑を見せている。

 

姉妹しぐさ似て来し秋衣   笹次

 

お着物をお召しになったのでしょうか。普段は宇治の大君と中の君みたいにそれぞれ個性的な姉妹もふとした市議差がそっくりだったりする。ほほえましいです。

 

名残の月のつれなく見えて  平井

 

ふむ、これは恋の呼び出しですね。来月は、恋の連句会となりそうです。

 

 

十二月の歌仙「山眠るの巻」

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パンデミックに明け暮れた今年もはや月末、新しい歌仙が始まります。

何かと忙しい冬の日に集まった風狂の友。当季の立句を所望いたしました。

 

音はみな谺となりて山眠る   正藤

 

枯れて明るくなった山を谺がさまよう。不思議に明るい虚無の響き。付けが難しそうだな…とおもいきや

 

  達磨ストーブでんとかまへて   佐藤

 

上手い!説明するとうるさくなるばかりでしょう。感覚的に味わってください見事な付けです。次は無季の句をお願いしました。

 

 

一つ聞き一つ忘るる一ㇳ日なり  正藤

 

一の字を重ねる趣向もおもしろいけど、季語があったら最後をの五を「小春かな」とかしたいところでいらっしゃったことでしょう。無季所望なんで…すみません。

一日ひとひ、というとき、小さいㇳを入れるのが「ほととぎす」式なんですって。

 

手もちぶさたに水使ひをり   笹次

 

これまた巧みなさらりとした付け。次は春の月をお願いしましょうか。

 

閉館の老舗旅館や月朧   佐藤

 

コロナヴィールスのせいか、歴史ある旅館の廃業もある昨今です。格式ある建物が廃墟になるのは寂しいですね。廃墟好きではあるんですけど。

 

ディナー・ショーへと青木を踏みし   笹次

 

「青き踏む」は春の季語、枯野がようやく青くなってくる、それを楽しみに郊外へ出かけ、草の上を歩む。

閉館となったホテルのディナーショーへ行ったことが御有りなのだそうです。ガーデンパーティーの後に芝生の青を踏んだのでしょうか。かつての華やかな時の思い出。

 

来月は新年ですが、どんな展開になりますでしょう。楽しみです。

 

 

 

 

 

十一月の歌仙「ほととぎすの巻」満尾

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あやとり橋から、鶴仙渓の紅葉を見下ろす

会場の芭蕉の館の庭の紅葉が驚くほど美しい日でした。ほととぎすの巻も、ついに名残の裏。

一句目は無季の句

磯釣の沖の巨船の動かざる  笹次

二句目も無季で、とおねがいしました。

 

 籠軽くして歩みのおもし   正藤

 

キノコ採りか山菜取り?前句が磯釣りですから、釣果がなかったってことでしょうかしらね。名残の裏は、さらさらと淡々とはこんでゆくものだそうです。さて三句目は。

 

まどろみて開きしままの文庫本   中江

 

無季ではありますが、どことなく春めいた気分の一句。いい感じです。

 

ふわりと反故の夕東風に乗り   橋本

 

前句ののどかで優しい雰囲気をつないでいます。次はついに花の上座です。

 

前撮りの母子のいこふ花筵  笹次

 

満尾を前にした寿ぎの花の上座にふさわしい句ですね。

 正装の母と娘に散りかかる花びら。美しく、大きな喜びに包まれながらも、大きなことをやりとげてしまったことへの一抹の喪失感もあって万感むねせまる、というかんじですね。

ところで結婚式の写真の前撮りって、このあたりの風習でしょうか。どこでもするの?

さていよいよ最後の句です。

 

橋三つ渡り春惜しみけり   佐藤

 

山中温泉は、写真の渓谷臨んでいますから、橋もいくつかあります。黒谷橋、あやとり橋、こおろぎ橋と遊歩道に沿ってめぐりつつ春を惜しむ。

発句の山中の景へと回帰する、見事な大団円でした。