「菊たけなは」の巻も名残の表の中ほどとなりました。前回は名残の裏の五句め、
夕づきて子らのいづくへかと失せて 笹次
というところまででした、そろそろまた恋を出してほしいとお願いしました。
ベンチの隅に紙コップ二個 元田
子供たちの失せたのは、ハーメルンの笛吹きなどではなく夕暮れの公園の光景として、そのベンチに残されて暮れなずむ紙コップをもってきた。自然な流れです。つぎも恋。
白桃のうぶ毛だいじに手わたさる 笹次
とても良い句ですが、これが、恋?
大切なものをそっと渡すのは、恋人同士かも知れないけど淡い…。
公孫樹【イチョウ)黄葉に待ち合わせたる 中江
人麻呂の歌に「秋山の黄葉を繁みまどひぬる妹をもとめん行方しれずも 」の、一首があります。絶唱ですね。黄色い世界黄葉の世界は黄泉の路ととなりあっています。辺り一面の輝く黄色の死の世界に待ち合わせする。黄色の世界の先には死のあることを暗示させた一句と見ました。
朝霧にシャンソンの恋夢と消え 平井
朝になるまで一晩中、恋の歌を聴く人は、恋する人ですよね。失恋すると、やたらに失恋の歌が耳にはいってくるものですよね。
これで恋も終わりか…。さて次は無季の句を
バベルの塔を積んで崩して 井上
まあ、それが、人間の業というものでしょうね。つぎは月の座です。月きは定座と言っても少し早めに出るのは許されるんです。初折のつきは、あきのつきでしたから、こんどは冬の月で、おねがいしましょう。