かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

歌仙「新涼」の巻はじまりました。

パイナップル・リリー

いつも珍しいお花に出会える芭蕉の館エントランスホール。なるほど名前の通りパイナップルっぽくもありユリ科のようでもありますね。

残暑も厳しい昨今ですが、新たな歌仙がはじまりました。

 今回はこれまでのような出勝ち ではなく膝送りにしてみます。句を作る番が、お隣の方へと順番にまわってゆきます。苦手でだろうが難しがろうが、まわりあわせた句、たとえば七七の無季の句で恋の呼び出しにしてくれ、なんていう無茶な要求でも答えなければならぬのです!

まずは発句

 

 新涼の風もたらしぬ今朝の雨  正藤

まだまだ暑さも厳しいですが、たしかにあさがたなどはほんのひとときながらすずしさをかんじることもありますね。脇句は

 

 深呼吸して秋草の中  中江

 

野原に出て思い切り深呼吸する。気持ちよさそうです。草の香に秋

をおかんじになっったのでしょう。

 

 野良着にてそのまま月の客となる  正藤

 

空席があって席順を移動しましたが、ともあれ、良い句ですねー。農作業して帰るその道を照らす名月。古の文人たちも嘆賞した秋の月を見上げれば、我もまた月の客の一員である。名吟というべきでしょう。

 

 砥石の銘の薄曇りとか  橋本

 

砥石にも名石がございます。薄曇りという名前の石が実際にあるんですよ。農作業用の鎌などを研ぐのにはあまり使われないかもしれませんけど。

さて、無季の句を一句挟んで次は冬の句おねがいしましょう。

 

初冬の旅の終わりのハイウエー  小林

 

冬の旅は、今でもお天気が悪かったり寒かったりつらいものです。家が懐かしい。帰心矢の如しってかんじでハイウエーをとばしてるのでしょう。

 

 追いこしてゆく冬ざれの犬  元田

 

ハイウエー→追いこす、という連想も自然ですし、小走りに追いこしてゆく犬のイメージはいかにも冬ざれの気分です。うまいつけです。

さてこれで初折の表 終わりました。次は初折の裏へ無季の句をおねがいしました。

 

空振りの金属バットなほ握る  井上

 

ちょうど高校野球をテレビでごらんになってお創りになった句、とのこと。負けて滂沱の涙を流す少年たち、印象的でしたでしょうね。句としては無季なので。

 

 ゲームしようか電話しようか   平井

 

前句の 負けてしまって、やり場のない気持ちで、すぐそのまま帰れないでいる少年の姿をうまくきりとっているとおもいました。巧者な付け。

 

少しだけ土持ち上げし名草の芽  佐藤

 

もの全て枯れはてたかに見える冬の風景。しかし、わずかでもその地面を持ち上げて小さな希望の芽が出てくる。

「名草の芽」は名前のわからない雑草などの芽ではなく、チューリップとか芍薬とか、それとわかる草の芽。ということ。

 

囀り競ふ湖畔のあたり  正藤

 

春の光に満ちた湖畔に降る鳥たちのさえずり。いかにも明るい光景です。

 

マネキンの足長々と夏隣   中江

 

季節に先駆けてファッションを変えるショーウインドウのマネキンは、夏服になって露出の多いスタイルになっているのでしょう。しゃれた感覚で面白い。夏隣という珍しい季語も生きている。

 

手のひらにある夢のささやき  佐藤

 

ふしぎなロマンチックな付けです。初折は花の定座がありますので、そこへ、間に合わすべく、夏と冬はとばすことにしました。で、秋の句

 

深紅のヴェネチアングラス秋暑し  橋本

 

つぎはそろそろ恋の句もほしいところ

 

露に泛べて遠き日の恋   小林

 

おお!ロマンチック!葉末に置く露のきらめきにも遠き日の恋の思い出が浮かぶ。つかの間煌めいて消えた恋でもその輝きは今も心を揺らす。うう、ロマンチック!

 

次は無季の句を挟んで春の句へと向かう流れになります。恋も続きます。