かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

十一月の歌仙 水澄ての巻

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先月は初折の表五句目月の座まででした。

篠笛の静寂を縫ふや冬の月  正藤

 

夜の静寂に嫋嫋と芸子さんの偲び笛。金沢情緒あふれる一句でした。さてそれに続けての句は

 

雪吊始む唐崎の松  佐藤

金沢の景。やや絵ハガキ的ではありますが。雪吊はきれいなものですね。さて、初折の裏へ入ります。

 

別院の門前に立つ蚤の市  笹次

 

特に金沢というわけではないけれど、古都の風景。

 

そぞろ歩きて鳥の声聞く   中井

 

最初は掘り出し物はないかとあちこち歩きまわってみるけれど、いつしか鳥の声などに、耳を澄ましている。気持ちも落ち着いてくるのでしょうね。

さて今回は春を飛ばして夏へ行きます。

 

夏めくや船主集落よろい張り  佐藤

 

「よろい張り」は壁板の張り方の一種だそうです。海の臭いがしそうです。

 

蝉しぐれ果て星の出そろう  正藤

 

夏の終わりの光景。星の瞬き方がものすごく綺麗。

 

今回も前回に続きいつもより選に時間がかかってしまいました。来月は初折の裏もなかほどから。

 


 

歌仙水澄て の巻

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新しい歌仙水澄てのまきがはじまりました、

発句

水澄て水の深さを失へり  正藤

 

水の澄む秋。あまりにも透明で水底がけざやかに見えることを逆説的表現が一際印象付けます。句姿もすっきりとみずのつめたささえかんじられるような一句。

 

旅の子の掌にのす木の実独楽  笹次

 

「掌」は「て」と読んでくださいませね。でないと七七にならないので。

見知らぬ子供との一瞬の邂逅。ごくごく淡い思いが、澄んだ水の印象とどこか通じるところもあるかと思い戴きました。三句目は

 

枯野ゆく言葉の破片ひらひつつ   笹次

 

芭蕉の、辞世の句に駆け巡って以来,枯野は俳人の戦場ですね。作者は言葉の破片を拾いながらさまよう。詩人の独白。枯野を行く気分は前句の旅の気分を受けていると思います。

 

飛行機雲の残る夕空  橋本

 

今回は私が迷いすぎてしまって、初折の表を終えられませんでした。らいげつは月の定座からです。冬の月ですね。

九月の歌仙 名残の裏

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歌仙「雛の家」の巻満尾

名残の裏

路地裏にパン焼く匂い朝の風  中江

 

名残表の最後の句がいかにも乾燥して寒そうな冬ざれのくでした。冬は、パンを焼く匂いが一入懐かしく良く匂いがする時節ですよね。

 

 晴るる兆しの西空あかり  正藤

 

ここ北陸でもお天気は西から変わってゆくと言います。まぁ、日本列島の位置からして西から変わるものでしょうら。冬の灰色の空もすこしあかるくなってくるころ。

 

雪のひま少し顔だす道祖神  佐藤  

 

雪の隙は春の季語です。樹木の周りなどから雪が解けて隙間ができる。雪深い土地ならではのきごですね。道祖神は信州の道が有名ですね。深い雪が少し溶け出して道祖神の顔があらわれた。のどかで温かみのある一句

 

空の青さと競う芽柳  正藤

 

こちらの連句会ではいつも投句が多くて選ぶのに苦労するのですが、歌仙も名残の裏まで来ますと、さりぎらいにひっかかるものがおおくなってきます。それが難しいですね。名残の裏はさらさらと、といいますから、きれいな自然詠をいただきました。

次が、花の定座ですから、本来は植物の季語は避けるところかもしれませんが、古今集にも載っている有名な歌、にもあります。

 

 みわたせば柳 さくらをこき交ぜてみやこぞはるの錦なりける  素性法師

 

花盛りの京を遠望して詠んだうただそうです。百人一首にも

はいってますね。柳・櫻は御縁というものとしましょう・。

 

福耳のをとこについて花の山  笹次

 

いいな、おもしろいな。名残の裏の花の座は「ことほぎの花」とも言われ、めでたい気分で終わるのが良いとされますから、福耳の男について花の山を巡るのは素晴らしい発想だと思いました。

この福耳男さんは、じつはお釈迦様なのじゃないかしら。

さて最後一句は

 

絵馬をならして強東風過ぎる  正藤

 

さまざまの願いの記された絵馬をカタカタとならして吹き抜ける一陣の風。願いは天神様がみそなわしてくださることでしょう。動きがあって季節感も濃厚で、いいくですね。

さてこれで「雛の家」の巻も満尾です、

来月からはどんな歌仙が巻けることでしょう。楽しみです。

八月の歌仙

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八月の歌仙

八月の歌仙、名残の表,八句めからです。季節は秋。

 

少しためらい蛇穴にいる  佐藤

 

蛇は洋の東西を問わず不思議な智慧を持つ生き物と思われていますが、その蛇にして、ためらう。わかる。

 

淋しさに野焼きの焔追いつづけ   笹次

 

すごいさびしさですね。狂おしいまでの淋しさ。前の句の蛇の一瞬の躊躇いを読み合わせると安珍清姫的な激情的淋しさにみえてくる。 面白い展開になったかも。

 

あの世の行き来蓮糸たぐる  平井

 

激情の果てにあの世と行き来…。妄執の地獄から蓮糸にすがって這い上がらんとするカンダタか。それとも折口信夫死者の書のような彼の世との交流なのか。

そろそろ月の定座。今回は冬の月でお願いしましょう。

 

寒の月咀嚼している磯の波  正藤

 

磯に繰り返し打ち寄せるなみを咀嚼すると捉えたのは面白い。

噛んでも噛んでも丸いままの月。いい句ですが「している」がやや子供っぽいかな。

咀嚼するがに」とかでもよかったかな。さて名残の表の終わりの句は

 

からからからと冬ざるる音  佐藤

 

朽ちて乾いてゆくものの音。冬ざるる音。感覚的に共感できます。

さて、来月は、名残の裏にはいります、

 

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七月の歌仙 名残表

コロナ禍の中、歌仙を巻くのは不要不急ではないと信じる風狂の志士があつまりました。さて、六月は 花の定座。お花見に、木の芽田楽を食べている下戸の人物が現れました。お酒の出る席は、私もあまり好きではありませんが、花を眺めながら、まったく飲めないのは残念でしょうね。

名残に入って一句目

ほっこりと寺の門前掲示板  中江

 

 何か優しい言葉が書いてあったのでしょうね。世の中に何となく居場所のないような気分の時、何でもない言葉にホッとしたりするものです。

 

古書の埃を吹いて日暮れて  橋本

 

せわしない現代に、古書を漁ったりするのは、とんだ 時代錯誤かもしれません。お寺の掲示板を眺めてほっとしたりするのは、どんな人かな、という流れ。

 

曇天を押し上げている合歓の花  正藤

 

夏の長句。合歓の花、きれいですよね。日が暮れると葉をたたむ、感じやすい植物みたいな印象を持ちますが、この句は一般的概念を打ち崩す、たくましい合歓の花。 

 

 夏手袋を小脇にかかえ  佐藤

 

合歓の花といえば奥の細道の忘れ難い一句「象潟や雨に西施が合歓の花  芭蕉」が思い出されます。薄倖の美女のイメージです。夏手袋の麗人はそれを小脇にして颯爽とおでかけのようですね。

 

今日もまた意中の人とすれちがい  平井

 

夏手袋の麗人はあこがれの、意中の人だったのですね。夏手袋は、恋の小道具にすごくいいですね。

 

東京駅の雑踏に消ゆ   中江

 

どんな雑踏の中でも、好きな人はすぐ見つけられます。顔が良く見えないくらいの遠くからでもわかるのは、不思議ですよね。意中の人は東京駅の雑踏へ。遠く旅立ってしまうのでしょうか。どうなるこの恋!

芭蕉の館歌仙 雛の家の巻六月

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初折の裏 後半

久しぶりの歌仙です。不要不急といえばこれほど不要不急なものもないでしょう。歌仙を巻くなんてね。

 こちらの歌仙の会では恥ずかしながら捌きのほかに、祐筆、披講と三職兼ねているので、私は結構忙しいんです。あ、絵も描いているので四職かな。

さて初折裏七句目は無季の句をお願いしました。

 

 まさぐりし右ポケットの飴ひとつ  佐藤

正座して月を待っていた人物は外に出て、紅葉など眺め歩いているようでしたのでその流れから頂きました。次は

 

 襟立てながら坂道のぼる  中江

 

やや寂しげに猶も道をたどるようです。季語を入れない七七は難しいもの。そろそろ春にしましょうか。

 

初音して崖の小草のぬれどおし  笹次

 

綺麗な早春の句。はつねと濡れ通しの小草、よくにあっています。

 

笑み交わしつつ春日傘上ぐ   佐藤

 

明るいつけですね。傘に隠していた顔を見せて挨拶しあう。春らしい。さて花の座です。

 車椅子押されて母も花見人  正藤

 

花をながめて今年も春の来たのを喜ぶ。美しい習わしです。いつも家にこもりがちなお母様もそんな賑やかな花見の人々の一人となっている。しみじみとした一句。

 

 下戸にまいらす木の芽田楽  笹次

 

花見といえば田楽。桜吹雪の散りかかる中で戴くのは、風流でもあり、いっそう美味しそうですね。

これで初折裏も終わりです。来月も歌仙の会ができることを祈りつつ。

 

 

 

 

 

芭蕉の館歌仙「青梅雨の巻」

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雅客をお迎えして

お名前だしてもよろしかったでしょうか。岸本葉子様をお迎えしての歌仙でした。平成29年六月のことです。

青梅雨の巻

発句  青梅雨や九谷の皿に山の景   岸本

脇   古き窓辺に届く南風  橋本

   僻村は曽て天領紬織る  梶

   ざる蕎麦うまき茅葺の店

月の座  市井の灯点々として月白し  平井

   影重なって稲田を駆ける  正藤

無花果を踏んでしまひしスニーカー   岸本

焦げぐせつきしジャムを煮る鍋  中井

有耶無耶にいきて余白を楽しむも   佐藤

亀を助けて釣糸垂れる  平井

この島に教会一つ暦果つ   正藤

右手の傷を隠す寒薔薇    西

丘の上二つの影の長句伸び   中江

恋人つなぎする手のしめり    佐藤

少年に月ついてくる石畳     橋本

足を止めれば虫の音響く    正藤

花一枝こほろぎ橋を渡りけり   平井

舌にしみ入る木の芽田楽     梶

 

四畳半まあるく掃いて春行かす   佐藤

まだ捨てかねし本を重ねて    正藤

乾山の碗に一服盛る相手     橋本

鏡に写る顔のけわしき      佐藤

隠沼に仲間のおらぬ蟇      西

近づくほどに滝音たかし     梶

どうにかなるみたらし団子ほうばりて  佐藤 

口紅を拭きじゃさようなら    梶弘美

ヘリで行く砂漠の端の新天地   西

モスクの屋根に除夜の鐘聞く   仝

廃港の波にまかせて寒の月    梶弘美

ドラムの音も悲しく重く

 

飛石に同じ貌なし雨の庭   梶

異国の人に道を問われて   橋本

囀りの上に囀り切通し    正藤

貝寄風に乗り佳信のとどく  西

三味の音に枝垂桜の身をよじり   梶

鰐口を打ち春惜しみけり     中江

 

あらためて見てみるとかなり去り嫌い問題あり、ですね。その場の雰囲気に流されてしまうようで、偏に、捌きのわたくしの未熟さ故でございます。 

 岸本様、御遠方から、ありがとうございました。