八月の歌仙、名残の表,八句めからです。季節は秋。
少しためらい蛇穴にいる 佐藤
蛇は洋の東西を問わず不思議な智慧を持つ生き物と思われていますが、その蛇にして、ためらう。わかる。
淋しさに野焼きの焔追いつづけ 笹次
すごいさびしさですね。狂おしいまでの淋しさ。前の句の蛇の一瞬の躊躇いを読み合わせると安珍と清姫的な激情的淋しさにみえてくる。 面白い展開になったかも。
あの世の行き来蓮糸たぐる 平井
激情の果てにあの世と行き来…。妄執の地獄から蓮糸にすがって這い上がらんとするカンダタか。それとも折口信夫の死者の書のような彼の世との交流なのか。
そろそろ月の定座。今回は冬の月でお願いしましょう。
寒の月咀嚼している磯の波 正藤
磯に繰り返し打ち寄せるなみを咀嚼すると捉えたのは面白い。
噛んでも噛んでも丸いままの月。いい句ですが「している」がやや子供っぽいかな。
咀嚼するがに」とかでもよかったかな。さて名残の表の終わりの句は
からからからと冬ざるる音 佐藤
朽ちて乾いてゆくものの音。冬ざるる音。感覚的に共感できます。
さて、来月は、名残の裏にはいります、