かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

七月の歌仙

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写真は伊吹麝香草です。季節違ってますけど。麝香の匂い、かなぁ?

さて今月は初折の裏に入りました。

 古道ゆくもののふの夢ふくらみて  平井

 

熊野古道とか歩いてみたいものです。王子を巡って往時をしのぶ。ハハハ

 

  風吹き渡る梢の音に  中江

 

古道を辿ると風邪の音にも昔がしのばれることだろうと、素直な付けと思い戴きましたが、四句前に「虫の音」がありました。うーん去り嫌いに引っかかりそうですが、その場ではつい見落としがちになります。一か月前の事なの物で。次は冬の句で、

 

白妙の一瀑を懸け山眠る  正藤

 

うつくしいですね。葉が落ちて眠る姿になった山に、滝は、はっきり見えるのでしょうね。熊野古道から那智の滝ってかんじ。さて付けは

 

 絵屏風立てて内緒のないしょ  佐藤

 

絵屏風、やや唐突と見る向きもございましょうけれど、熊野、那智とかつての熊野詣は曽ては白河院や定家はじめ貴顕も多く参拝し、江戸時代は伊勢詣でのついでに大概寄ったそうですから、そんな折には絵屏風の陰でささめきあうこともあろうか、と思います。恋の呼び出しですね。

 句会場隣席したき君を待つ  正藤

 

おおお!り、リアルですね!

大人数の句会では清記用紙がたまると「速く回して!」と怒られますが、隣の彼女が怒られないように、あえて自分が溜めて、彼女にはそのペースに合わせてそっとまわしてあげるのだそうです。は~っ具体的…。

 

恋の行方はどうなるのでしょう。

 

 

 

 

六月の歌仙 ほととぎすの巻

六月の歌六月の歌仙

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今月から、また新たに歌仙を巻き始めます。

写真は、当季の発句をお願いして、ものの十五分くらいで集まった句、句、句、です。

すごいでしょう!大量の上に質も高い。

発句なので、丈高く、と、いうことで、、

 

ほととぎすしきり湯の町目覚めたる  笹次

 

 土地への挨拶がこめられて、さわやかにして格調もあり発句らしい発句です。

今年は鳥の声がにぎやかです。鷹の声もしますし、アオバズク、そして何年かぶりに赤ショウビンの声も聴きました。さて、脇は。

 

山中節を緑陰に聞く  佐藤

 

そう、この地は山中温泉。渓谷沿いに旅館の軒を連ねる北陸屈指の温泉地です。山中節、以前こちらの会場で女の方が歌っているのを、漏れ聞いたことがあります。綺麗なお声でいらっしゃいました。つぎは無季の句をおねがいしましょう。

 

奥座敷おはぐろ壺の座り居り  平井

 

おはぐろ壺は、お隣の福井県越前焼がゆうめいですね。鉄漿を本当に入れていたのか知りませんが、小ぶりでなかなかいい形の壺です。野草の花を生けると似合いそう。早々に秋へ、

 

虫の音すだく単線の駅  正藤

 

秘境駅に虫の音を聞きに行く。風流もきわまれり、という旅ですね。つぎは月の定座です。秋の月。今年の名月はどこか旅に出て眺められるかな。旅に出たいなー。

 

地酒下げ兄の来たりし良夜なる  中江

 

いいですね。旅でなくとも良夜に訪れる人がいる。友でも恋人でもなく、兄であるのがひとしお渋い。人生経験を積んだ兄弟姉妹という印象です。

さて初折の表の御仕舞は、

 

村芝居での思ひ出話  平井

 

兄弟で家族内の思い出話ばかりだと、なんとなく煮詰まってくる気もしますが、地域全体の思い出だと、懐かしさも、そこそこ風通しが良い。

さらさら初折表も巻き終わり、来月は初折の裏にはいります。

 

 

五月の歌仙

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さて、水澄やの巻もとうとう名残の裏となりました。一句目は先月に戴いております。

 

鳥獣懐に抱き山眠る   正藤

 

さて二句目は

 

水ひそやかに凍滝の裏   佐藤

 

素晴らしい付けですね。凍った滝の裏にはひそやかに水が流れているのだ。前句の、冬の最中、深い慈愛に満ちた優しさで鳥や獣を抱く、母なる山の温かみが感じられるところを受けて、厳しく凍てついた滝の、その裏に密かに通うみずの気息をとらえた。感性に脱帽、

つぎは一句無季の句を挟みたいと思いました。

 

親しくも疎くなりゆく人の世に  正藤

 

名残の裏にしては、やや重くなったかもしれませんが、無季の五七五って、本当にどう持っていったらよいか悩むものですね。

 

七色に散るシャボン玉よ  中江

 

この付けも上手い。前句の感慨をうけて無常迅速、人の世のはかなさを軽やかにかつ美しくちいさなシャボン玉に映し出しました。絶妙ですね。さて、次はついに花の定座です。

 

半分の明るさありて花の雨  正藤

 

花時の花に降る雨の不思議なあかるさ。美しい句です。細みがある、というか。

さて最後は

 

隠り沼にも春闌けにけり  佐藤

 

前句の細みを堂々と受けて大団円の雰囲気。人の知らない隠れた沼にも春は闌となっている。味わい深い。

 

 

 

四月の歌仙水澄むや の巻

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岩やつで 楚々とした風情の山草ですね

三密を避けて連句の会今月は名残の表の終わり九句目から

やや早めですが秋の月を所望しました。

そこで集まった月の句がかくのごとし。

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大量!

十分かそこらでこれほどの句句が!

どれを選ぼうか贅沢に悩みましたが、これまでに、似たような句がないことを理由に選ばさせていただきました。

 

松に触れビルに隠れて今日の月  正藤

 

夜の都会を散策する作者と月の仲よさそう。次は秋の七七。

 

予約少なし残菊の宴  平井

 

風流な宴もこのご時世では、控えざるを得ませんものね。そろそろ秋を離れて無季の句をお願いしましょう。

 

路地に入りパン焼く匂ひほのかにも  中江

パンの香りっていいですよね。露地の奥の小さなパン屋さん。外国の風景みたいですね.旅の気分かな。

 

 昭和探しの旅をし思ふ 笹次

 

空間的な外国ではなく時間的に今は昔の世界を探す。そういう旅も素敵です。

さて次は名残の裏。冬の句をお願いします。

 

鳥獣懐に抱き山眠る  正藤

 

山眠るって良い季語ですよね。春の芽吹く輝きに満ちた「山笑う」もよいですが。今回は、毎回 出句が多くて選ぶのに時間がかかってしまいました。

来月はいよいよ名残の裏の満尾までの運びです。いよいよ。

 

三月の歌仙 水澄むや の巻

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芭蕉の館 玄関吹抜け

 

ようやく春めいてきた山中温泉。名残の表。二句目に恋の呼び出しがありましたのでうけてたちましょう。

緑陰に誘ひ話の続きなど  中江

 

 さりげないけれどなかなか。枝影の揺れる中に「お話の続きが…」などと誘う。なかなかの恋の巧者の句です。

 

 祭の輪へと吸ひ込まれゆく   佐藤

 

夏祭りはデートの鉄板コースですが、さりながら、踊りの輪へとふらふら引き込まれるのは、だれしもの事ですから、恋と云うにはやや淡いかな。

夏の恋の後は、無季で恋の句お願いしましょう。

 

昼下がり逢ふてはならぬ人と逢ひ  平井

 

前句、淡いと言ったら今度はドラマみたいな苦しい恋の句。こういう時、季語が欲しくなりますよね。例えば、「片陰や逢ふてはならぬ人と逢ひ」とかだとぐっと陰影が濃くなりますし、「花蘇芳逢ふては…」と花など添えるのもまた一興ですが。無季にするためにご苦労なさったのでしょうね。

 

誕生石のルースのままに   橋本

 

リングにもならず、手元に残るその人の誕生石。この辺で恋も終わりといたしましょう。次は秋の句

 

天空を真二つにして星流る   佐藤

 

雄大な景色。夜空をよぎるのはかなりの大きさの隕石でしょうね。前句の宝石はラピスラズリだったのかな、金の散ってるやつ。

 

白山の秋その只中に  中江

 

山の上で見る空ってさぞきれいなことでしょうね。美しい秋のその只中にいる。ハー、山登りできる方が羨ましい。

さて、先月も危うく月の出ない初折になるところでしたが、名残の月もそろそろでてほしい。しかし、星がすでにでているのでここはあえて「月」の字のない月の句を所望してみましょうか。

十三夜  十五夜  玉兎 初魄 嫦娥 桂の何とか、っていうのもあった。いろいろありますよ。

 

 

 

 

 

 

二月の歌仙 水澄むやの巻

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一月はお休みでしたが、今月は歌仙を続けます。ソーシャルデイスタンスちゃんととってます。隣室にはお雛様。外は雪。

さて、今回は十句め、花の定座を前に春の月をだしていただきましょう。

 

増穂が浦の月のおぼろに   笹次

増穂が浦は桜貝で有名な美しい海岸です。季語にもなっている「貝寄風 かいよせ」の吹くところ。次はいよいよ花の定座

 

花を見に花のにほひのする方に  佐藤

 

私はどうも、桜の句となるとどうしても構えてしまうようです。それで、この飄々とした句風には虚を突かれました。

さて初折の裏のおしまいの句は、

 

御女中集ひ弥生狂言  村井

 

いやはや、桜の花の匂いに誘われていったら、何という賑わしさ!御女中の嬌声が聞こえてきそうです。狐に化かされたような光景。オモシロい!

さていよいよ、名残にはいります。

 

塩大福遠慮の一個手をだして  佐藤

 

俳句は、てにおは を省略することが多いですが、ここは難しいところです。「一個に」と省略するべきでないという意見もあるかとは思います。なくても意味はわかりますけどね。ちょっと食べ物欲しいところでしたので。

 

占い欄に待ち人来たる  村井

 

恋の呼び出しだそうです。ありがとうございます。

 

十二月の連句会 歌仙「水澄て」の巻

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椿、かな?

ッ先月は、初折の裏四句目まででした。

蝉時雨果て星の出揃ふ  正藤

美しい付け。この後はそろそろ恋の欲しいころ。

五句  片ならべはやぶさ2はどのあたり  中江

 

てちょうど竜宮からの玉手箱が地球に届けられるそのころあいでしたので。二人で星空を眺める。ロマンチックかつニュース性もあるおだやかな恋の句

 

幹にもたれて語るゆくすへ  正藤

 

先ほどの恋人たち公園デートだったのか。それともハイキングか。青春っぽい。

 

二人とも越前蟹をもてあまし  笹次

 

わかる。お皿に丸々一匹立派な蟹を出されると、慣れないものはどうやって食べたらよいのかわかりませんよね。

 

関守石に冬の日当たる  佐藤

 

恋の終わり、恋離れにふさわしい光景。関守石が鎮座しているところを見ると一線は超えず節度を守ったのでしょうかね。

 

晩鐘の静寂這ひ来る大広間  正藤

 

無季の句ながら格調が高い。作者は一人深いもの思いにふけっていたのでしょう。晩鐘が静謐な部屋のなかに這うがごとく低く響いて来る。人気のない大広間に、孤独感がいやます。名吟ですね。

しかし、ここでなんとしたことか、私ったら、月を落としています。恋に浮かれて月を落としてしまった。ひとえに私のうっかりミスです。お恥ずかしい。

仕方ない、来月花の定座の前に春の月でも出してもらいますか。ああ、