かがなべて

言葉遊びと、毎月の歌仙など

「菊たけなは」の巻満尾!

長谷川櫂先生に発句をいただいた「菊たけなはの巻」・

大雪や休館日、風邪など、お休みの月もあって、ずいぶん長くかかりましたが、ついに名残の裏に入りました。

 

一句目  香聴くは闇聞くことと思いをり  橋本

       ちょっと重いので、軽めにサラリと行きたい。

 

二句  スマートフォンの電源オフに  佐藤

       闇の静けさつながり、ですかしらね。

 

三句 鶯のこゑつまづいて薬師坂  中江

 

  つまづいたのは作者ご自身かもしれませんが、早春の、まだ鳴き方が下手で表現に躓いている鶯のことともうけとれます。面白い。次も花の定座の前に春の句もう一句。

 

四句 春風の先水切りの先   井上

 

   水面に小石を投げて跳ねさせる遊びは、なんとなく青春っぽい。

さて、ついに花の定座です。

 

花影の御堂に並ぶ仁王達  小林

 

 繚乱と咲き誇る花の下 御堂に、仁王立ちの仁王達。華麗なものと恐ろし気な破邪の相の取り合わせ。でも仁王の憤怒と慟哭は人を救わんとしてのものですから、そこまで人を思うものかと、逆に感心しちゃいます。花も散りまがう感じ。

ついにこの歌仙も最後の一句となりました。挙句です。長くかかった歌仙なので感無量です。

 

 

春を惜しみて椅子を窓辺に     元田

 

椅子を窓辺まで運んで、そして眺める。万物の流転の様を。春の行くへを。

 

これまでは、出勝ちで投句していただいていましたが、次回は膝送りで歌仙をまとめてみようということになりました。楽しみです。

 

 

菊たけなはの巻五月

芭蕉の館薄暑

「菊たけなは」の巻も名残の表の中ほどとなりました。前回は名残の裏の五句め、

 

夕づきて子らのいづくへかと失せて  笹次

 

というところまででした、そろそろまた恋を出してほしいとお願いしました。

 

ベンチの隅に紙コップ二個   元田

 

子供たちの失せたのは、ハーメルンの笛吹きなどではなく夕暮れの公園の光景として、そのベンチに残されて暮れなずむ紙コップをもってきた。自然な流れです。つぎも恋。

 

白桃のうぶ毛だいじに手わたさる   笹次

 

とても良い句ですが、これが、恋?

 

大切なものをそっと渡すのは、恋人同士かも知れないけど淡い…。

 

公孫樹【イチョウ)黄葉に待ち合わせたる   中江

 

人麻呂の歌に「秋山の黄葉を繁みまどひぬる妹をもとめん行方しれずも 」の、一首があります。絶唱ですね。黄色い世界黄葉の世界は黄泉の路ととなりあっています。辺り一面の輝く黄色の死の世界に待ち合わせする。黄色の世界の先には死のあることを暗示させた一句と見ました。

 

朝霧にシャンソンの恋夢と消え   平井

 

朝になるまで一晩中、恋の歌を聴く人は、恋する人ですよね。失恋すると、やたらに失恋の歌が耳にはいってくるものですよね。

これで恋も終わりか…。さて次は無季の句を

 

バベルの塔を積んで崩して   井上

 

まあ、それが、人間の業というものでしょうね。つぎは月の座です。月きは定座と言っても少し早めに出るのは許されるんです。初折のつきは、あきのつきでしたから、こんどは冬の月で、おねがいしましょう。

 

 

 

 

歌仙「菊たけなは」の巻

砂利道に咲くすみれ。可憐!

二月は大雪、三月は休日にあたるなどで、久しぶりの歌仙です。名残の表に入りました。花の定座から行く春を吉野に惜しんだ後、まずは無季の長句

 

ぼろ市に転がりてをり涙壺   元田

 

涙壺は独特の形をした壺ですね。オリエントのものが良く知られています。続いて無季の七七。

 

飛行機雲の尾の消え初む   佐藤

 

前句の打ち捨てられた涙壺のもの哀れさをうけて、そこはかとなく哀感があります。

次は夏の句へまいりましょう。

 

鷺の首伸びて縮んで青田波  中江

 

風に波立つ田んぼの緑の中を音もなく移動する鷺のすがた。よく観察してますね!飛行機雲の消えた空から舞い降りた鷺。

 

怺へきれずに滴り落つる    正藤

 

「滴り」は夏の季語です。岩清水などのしたたりに目がいくのは夏ですよね。涼し気なものです。ながめていると、小さな水のふくらみがみるみる大きくなって丸くなって落ちてゆく。子供のころなど良く眺めたものです。

つぎはまた無季を挟んでもらいましょう。

 

夕づきて子らいづくへか失せてをり  笹次

 

夕方の気配がし始めて、ふいに、それまで遊んでいた子供らがいなくなっているのに気づく。季語がないから無季ですが、どこか暮れ速い秋の気配を思わせる一句。

それにしても初折の恋もほとんど気づかないくらい淡かったのに、名残の裏になっても恋にならないとは…。

季語はないから無季ですけど、暮れ早い秋の気配

 

 

 

歌仙「菊たけなは」の巻

あけましておめでとうございます。ことしも楽しく歌仙を巻いて行きたいものです。

会場の床の間。お正月らしくおめでたいしつらいです。

 

前回は初折の裏七句目まででした。

 

時雨るやお借り申すぞ寺庇  正藤

 

という蕪村の句のような味わいの一句でした。さて、その付けは

 

一礼をして踵を返す  佐藤

 

上手いつけですね。前句のユーモアのある時代がかった物言いを踏まえて、芝居のワン・シーンのようです。歌舞伎ですね。

 急な雨に何人か、寺の庇に雨宿りするなか、急ぎの用でもあるのか、踵を返して出て往く一人。雨宿り仲間に一礼してゆく。そこはかとなく礼儀正しい挙措に、今は落魄の身の上でも由緒ある出自の浪人、みたいな。

もう一句無季をお願いしました

 

水たまり跳んだつもりのスニーカー  中江

 

バシャッと水をはねてしまったのでしょうね。それも楽しそうです。若々しい現代の句に戻ってきました。次は花の定座の前の春の句

 

対角線に蛙鳴く畦   平井

 

おもしろい!畦がきっちり四角いんですね。その対角線上に蛙が鳴き交わしている。自然の理にのっとって、いるのですね。さて花の定座。

 

この投句の数!両端切りましたけど机一杯あるんですよ!選句に時間かかりました。

そのなかで、

 

西行の跡訪ねゆく花ぐもり  小林

 

「花ぐもり」が、ことのほか良いですね。余韻があります。

また旅がはじまるのかな。

 

吉野の里に春を惜しみて  笹次

 

西行といえば桜、桜と言えば吉野です。奥千本の西行庵もゆかしい。

来月は名残に入ります。旅化、恋か、どんな展開になるか楽しみです・

 

芭蕉の館連句会十一月「菊たけなはの巻」

紅葉の盛りの芭蕉の館。今回は初折の裏、三句めからです。春の句

 

薄氷の幾何学模様昨夜の風  正藤

 薄氷(うすらひ)は初春の季語です。夜の間水辺の氷が風向きによって厚みを増したりゆるんだり、亀裂が入ったりするのでしょうね。まだまだ寒いけれど薄くなった姿に春のけはいをかんじる。

 

しゃぼん玉吹く君の声入れ   元田

 そろそろ恋の句も欲しいというところで、春のシャボン玉。きれいで儚いその中に君の声が入っている!すばらしい。ふく息と一緒に小さく漏れた声でしょうか。あまりにも感じやすくて壊れてしまいそうな恋ですね!

 

モネの池ひと巡りしていとほしき  佐藤

ジヴェルニーの池はかなり広いですよね。どうしても夏の睡蓮の咲くころを想像してしまいますが、文字の上では無季の句。夏の恋の思い出か…。

大急ぎで季節は秋に。

 

 皆既月食<あか>を残して   井上

 

この<あか>は偏は赤で作りは者、という漢字です。茶色っぽいレンガ色がかった赤の意です。私のおバカなPCでは出ないけど。

先日の皆既月食見事でしたね!

 

時雨るやおか借り申すぞ寺庇    正藤

 

古寺に雨宿り、昔物語なら幽霊でも出そうなところですが、作者は時代がかった表現にユーモアを込めて、時雨の寺というシチュエーションを楽しんでいらっしゃるようです。

さて来月はいよいよ初折の裏もおしまいになる運びです。花の座が待っています。

 

 

 

芭蕉の館歌仙十月「菊たけなは」の巻

新しい歌仙がはじまります。今回は先月、山中温泉においでになった俳人長谷川櫂氏に、発句をいただいております。台風のせいで一か月遅くなってしまいました。

 

来あはせて菊たけなはの山湯かな   櫂

 

芭蕉の「山中や菊は手折らぬ湯の匂ひ」を踏まえた、土地への挨拶句さすがでございます。

  東籬のもとに細き虫の音   橋本

 

付けは、菊と言えば思い浮かぶ「菊を採る東籬のもと悠然として南山を看る」の、陶淵明の「飲酒」の一説を引用して、細々ながらも、こうして鳴き続けております。という気持ちです。

第三句目は

 

   断崖を海に落としてけふの月   平井

 

発句にしたいような迫力の一句ですが、これは先月にすでに提出済みという話せば長い経緯があるのでそのまま、とらせていただきました。堂々たる句です。この月には凄愴のすごみさえある。

つぎは無季の句を挟みたいと思いましたが、海と断崖という大景のあと、展開がややむずかしいかも。

 

水門はるか鳥の羽ばたき   笹次

 

この作者はいつも高度な句をおつくりになる方ですが、こちらは、さらりと受け流した感じ。水鳥の鴨などは夜も飛びますし。さて、無季を一句だけ挟んで次は冬の句をお願いしましょう。

 

古本に赤線ありぬ憂国忌   元田

 

手に入れた古書に線が引いてあったりする事はたまにあります。普通はあまり嬉しいものでもないですが、これは、いかにも真摯に、切実に向き合って読書していたことのわかる場所にひかれていた線なのでしょう。おりしも憂国忌。実にいい取り合わせです。

憂国忌の句として秀逸だと感銘いたしました。

 

どか雪を来し朝刊の束  中江

 

冬の朝、大雪の中、それでも届けてくれた朝刊の束。山中温泉も雪深い土地ですから自然詠でしょうが、朝刊の束に目を止めたところ、おそらくあの憂国の出来事のあった翌日の新聞はその事件で重かったでしょうから、絶妙の付けとおもいました。

さて、初折の裏へはいります。

 

 梵鐘の余韻を背に旅の宿  正藤

 

 夕べの鐘でしょう。その響きの中に宿についいた。旅心が誘われます。古い町のやや古風な旅館の佇まいが目に浮かびます。旅がはじまりますね。

 

ハフハフと食ぶたこ焼きの船  佐藤

 

フフ、熱々のたこ焼きを食べる光景にぱっと転じた気転がかっこいい。容器の船の形に一抹の旅情と哀れさあり。

さて、次回は春の長句。旅は続いているのか、そろそろ恋か。

 

八月の歌仙 「山眠るの巻」満尾

八月はお盆休みを避けて今日23日となりました。山中温泉がテレビに放映されたとかで今日は観光客らしい方々が大勢あるいていらっしゃいました。連句会の会場の芭蕉の館も見学の方が次々お見えでした。

さて、そんな中で、いよいよ名残の裏、残り五句です。一句目は

  ペン握り日頃の多弁一句なし   井上

でした。つづきはもう一句無季の句を

 

  海を見に行くバスを待ちゐて  中江

 

そうですね。何も思い浮かばないときは外に出て景色を眺めるのが一番かも。

 

三句 浅き春フラフープのごと土星の環  佐藤

 

目が回りそうなスケールのフラフープですね。

 

四句 木の芽田楽味噌派しょうゆ派   佐藤

 

花の定座を前にしての木の芽田楽。楽しい運びです。さていよいよ花の座です。実は、私は今年はどこにもお花見に行けませんでした。コロナのことありますが。ウクライナの戦争の悲惨な光景を目にするとなんだか沈んでしまって。

せめて句の中でも花を満喫したいものです。

 

五句(花の定座) 老桜幹の低きに蕾をり   元田

 

 

桜の古木に、幹からじかに一輪の花が咲き出すことありますね。幹の方はゴワゴワ、ごつごつしている中に、可憐に咲き出す花の姿は、ひとしお哀れ深いものがあります。いい句ですねー。感銘うけました。

ついに挙句です。

六句 からくり時計春の闌けたる    笹次

 

からくり時計のこまごました仕組みの中に、春たけなわの時間が紛れてゆったりと流れる。面白い取り合わせです。

今回は、なかなか変化のある面白いまきでした。ただ、その場の勢いでさばいてしまって同じ言葉が重なったりしてしまうのは、ひとえに私のいたらなさの故です。反省してるつもりなんですが、何度も同じことやらかしてますね。気を付けましょう。